仕組みづくりや場の提供で現場の主体的な取り組みをサポート
マンスリーレポートで病院の経営改善に貢献

医療法人真生会真生会富山病院の経営企画部に勤める中神勇輝さん(医療経営士2級)は「経営の見える化」を推進し、現場職員の主体的な行動をサポートしてきた。現場とともに考えるスタンスで経営改善を進め、収益のV字回復に貢献、継続している。今回はその取り組みを説明した、2017年に『月刊医療経営士』に掲載された記事を紹介する。(一部抜粋、改変あり)

現状や課題に加え
職員の努力・貢献を見える化

中神勇輝さんが勤務する真生会富山病院は、24時間の救急診療や平日午後5時以降と土曜日の外来、全科によるチームでの在宅医療などに取り組み、地域医療に貢献している。住民からの信頼は厚く、99床という規模ながら外来患者は1日平均約900人、多いときには1100人に上るほどだという(数字は2021年現在)
他人を幸せにすることがそのまま自分の幸せになるという「自利利他」の仏法精神を理念に掲げ、地域医療にまい進してきた同院だが、意欲と力のある専門職が揃っているにもかかわらずそれが効果的に発揮できていない、各科・各部署に任せられ一元的な管理ができていないといった課題を抱えていた。

そこでさまざまな取り組みが進められたのだが、そのなかで中神さんが取り組んだのが「経営の見える化」である。
きっかけとなったのは、2014年度の単年度収益が赤字となったことだった。真鍋院長が病院の危機的状況を明らかにし、全員で協力をしながら乗り切っていこうというメッセージを発したことで、各部門から「自分たちは何に取り組んだらいいか」という声が上がってきた。

しかし、適切な情報がなければ、適切な行動にはつながらない。そこで、各種経営指標を中心とするさまざまなデータを収集・分析し、自発的な行動をサポートする取り組みがスタートした。中心となったのは、中神さん。医事課に所属し診療報酬の数字に精通していたことから、経営企画室兼務で経営の見える化に着手した。
具体的には、70ページにも及ぶ各科・各部署の経営指標の月次報告書である「マンスリーレポート」を作成したほか、医師・部課長以上が出席する月1回の「経営会合」、診療科別に週1回行う「医師会合」などを通じて情報を発信していった。


現在中神さんが作成している「マンスリーレポート」は37項目掲載

マンスリーレポートのグラフ
実際のレポートは項目の数値が折れ線グラフであらわされていて一目で増減がわかるよう工夫されてる
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中神さんは
「経営状態がわかるようになると職員の危機意識が高まることはもちろん、自部署の取り組みの成果がわかってモチベーションが高まったり、他部署の動きが見えて刺激を受けるという効果もあります。
つまり、数字・現状だけではなく、職員の努力・貢献を可視化することができます」
と話す。

ただ、見える化の作業は膨大な量の数字・データと向き合わなければならない。現状や取り組みによる成果がわかるようにするには継続して収集・分析することが求められるため、続けていくための工夫が必要となる。
同院では経営分析ソフトを活用したほか、最初にある程度定型のフォーマットを作成し、できるだけ効率的に作業を行うことを心がけた。

また、会議などの場の設定も見える化を推進するうえで重要なポイントになった。
「顔を突き合わせて『ああしたほうがいい』『こうしたらいいんじゃないか』と話し合っていただくことでかなり盛り上がりますし、課題解決のためのコミュニケーションの場を提供することで活性化につながったと感じています。
私自身の役割については、実は当初、会議には出席するものの、議論のもとになる数字を示す〝オブザーバー〞のような立ち位置だと捉えていたのですが、参加するうちにデータの説明だけではなく、その背景に関する分析、改善への提案なども求められるようになりました。
求められるデータも要求レベルが高まっていきかなり苦労したのですが(笑)、それだけ意識が高まっていることの表れだと思っています」と中神さん。

経営人材には全体を俯瞰して考えることが不可欠であるが、それと同時に、部署や職種にこだわらずに現場職員とコミュニケーションを図りながら、ともに考えることも重要な役割だと言えそうだ。

職員一丸の取り組みによりV字回復を達成

さまざまな取り組みの積み重ねによって、病院の進む方向性と、各部署・職員のベクトルを合わせることに成功した同院。15年度は収益が約13%アップして赤字は解消し、V字回復を実現した。これは現場職員の自発的な頑張りに加え、それをさまざまな形でサポートした経営企画室の貢献も大きい。

「職員が安心して働ける環境をつくったり、地域の皆さんに継続して医療を届けたりするためには、利益をきちんと出していかなければなりません。この職員満足(ES)と患者満足(PTS)、さらには組織満足(OS)の3つは、病院の理念を実現するための経営基盤なのだとわかりました。
利益を出すことは目的ではありません。これを常に心に留めておくことで、多職種や地域を巻き込む力が生まれてくると考えます」(中神さん)

取材当時の2017年、目標を聞かれた中神さんは次のように語った。
「経営人材として、18年度のテーマとしているのが『実現力』です。昨年は名古屋で開催された全国医療経営士実践研究大会で演題発表を行い、さまざまな収穫がありました。医療経営士の資格取得や研究会への参加などを通じてこれまで学んできたことをさらに病院に還元してくために、経営層や多職種にさまざまな働きかけをしていきたいと考えています」。(『月刊医療経営士』2017年4月号より一部抜粋、改変)

※本文中の画像は日本ヘルスケア経営学院WEB講座「マンスリーレポート(月次経営指標)作成と活動」の説明資料より抜粋

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マンスリーレポートの画面

中神勇輝
医療法人真生会 真生会富山病院 経営企画部企画課
なかがみ・ゆうき●早稲田大学商学部卒業後、医療法人に就職。医事課勤務を経て、現在は企画課に所属。主な仕事は経営分析。医療経営士2級。

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