“その人らしさ”を支える特養でのケア
第59回
施設間の情報共有が栄養ケアの質を高める

新規入居の際に前施設で提供されていた食事内容の詳細を確認したい時、皆さんはどうしていますか?栄養情報提供書がある場合にはその内容を確認すれば済みますが、なければ前施設に問い合わせます。栄養ケアを行ううえで、前施設での情報は貴重な指標。必要な情報を得るために大切なことです。

ケアに欠かせないファーストステップ

栄養情報提供書はその名のとおり、栄養ケアの内容を記載し他施設へ情報提供するための書類です。
特養の新規入居時には、事前にご利用者情報の共有が行われます。しかし、長引くコロナ禍で、生活相談員やケアマネジャーによる入居前のアセスメントは施設職貝からの事前情報のみに留まるということも多く、ご利用者の入居後に「聞いていたご様子と違うな」と思うこともしばしばです。こんな時、入居後に改めてアセスメントすることになるのですが、環境の変化でいつもと違う様子のご利用者も多く、状況把握に難航することも少なくありません。
身長や体重、提供されていた食事の名称などは看護・介護サマリー(在宅の場合は介護サービス利用時の記録)にも記載されていますが、必要栄養量や詳細な食事情報(食形態や補助食など)は栄養情報提供書ならではの内容です。この栄養情報提供書を施設内の多職種で情報共有することは多く、特養での栄養を含めたさまざまなケアのファーストステップには欠かせない情報源として活用しています。

事前情報とアセスメントを照らし合わせた栄養ケア

Iさんは90代後半で既往に下肢の骨折があります。Iさんが入居される時、事前情報では刻み食を召し上がっていて、食事摂取量は提供量の8割の時もあれば2割の時もあると食べムラが伝えられました。
入居時に持参された看護サマリーを確認すると、書かれていた食事の名称と事前情報で聞いていた内容が異なっていました。また、事前情報にはなかった補助食の提供について記載があります。あいにく栄養情報提供書がなく、困った私は前施設の管理栄養士に問い合わせることにしました。
栄養情報提供書の有無にかかわらず疑問に思ったところを直接確認するため、当施設に入居前に過ごされていた施設の管理栄養士に電話で問い合わせることはたびたびあります。高齢者施設の管理栄養士が病院の管理栄養士に電話をするのはハードルが高いと耳にすることがあります。どんな病院や施設に電話するにしても、初めての方に電話をすることは確かに勇気が必要です。しかし、思い切って電話をしてみると、どなたも快く対応してくださいます。稀に管理栄養士が配置されていない施設に問い合わせを行う場合もありますが、そんな時は生活相談員と相談し入居時の窓口となった方とお話させていただいています。
今回のIさんのケースでも、利用中の食形態や補助食の内容、食事摂取量などを電話で聞き取りました。またIさんの担当だった管理栄養士が、食事摂取量が少ないまま他施設へ移ることについて不安に思っていたこともわかりました。直接情報交換をしてみると、前施設での担当者の思いや対応方法が詳細にわかることもあり、栄養情報提供書がある場合でも書類には表れていない情報を電話なら受け取ることができると感じています。

情報の数だけ栄養ケアがある

Iさんに対する入居日のアセスメントで訪れた昼食では、数口召し上がったのみで食事が終了してしまいました。入居日は、移動のお疲れで摂取量が少ないことはほかのご利用者にもしばしば見受けられることです。しかし、その後も摂取量は少ないままで、疲れて食べられない、というわけではない様子。入院中の食事摂取量不足は入居後も継続していました。
以前と食形態が違うため食欲低下を起こしているのか、と考えましたが、Iさんご本人は「このままがいい」と希望しています。食欲低下の要因はなんだろうと考えながら入居後のIさんの様子を振り返ると、環境の変化に戸惑っているように感じたことを思い出しました。そこでIさんが環境に慣れるまではしばらく、食事摂取量の推移をモニタリングしながら、結果によって補助食を追加するかどうか決めることにしました。
継続的にIさんの食事風景を見ていると、ご飯とみそ汁、漬物少々で食事が成り立ってしまうのだとわかりました。これは土地柄かもしれませんが、当施設のご利用者で高齢の、特に山間部で生活されていた方は、ご飯にみそ汁、野菜のおかずや漬物で十分だとおっしゃる方が多くいらっしゃいます。Iさんも「こんなにおかずはいらないです」と主菜を残されることが多々ありました。しかし、Iさんには褥瘡があり、たんぱく質の補給が重要です。Ⅰさんに「おしりの傷(褥瘡)を早く治すためには、おかずを食べることが大切ですよ」と説明し、たんぱく質の多い食材を使用することの多い主菜はどれなのか見分け方もお伝えしました。加えて、介護職員にも、食事中に主菜も食べるように促してもらうことにしました。これが功を奏し、主菜摂取量の上昇に合わせ食事全体の摂取量も向上しました。入居直後と比べると離床時間が延長し、レクリエーションにも楽しそうに参加されるIさんの姿が見られ、お元気になられたなあ、と感じています。

事前情報の食事内容を優先して栄養ケアを開始したIさんの事例ですが、食欲不振の原因は環境への適応であると判断し、前施設の栄養ケアの内容は継続していません。冒頭の説明とは違う対応となったケースではありますが、前施設での対応を踏まえて総合的に判断できるのは情報があってこそ、と思います。

令和2年度の診療報酬改定が追い風となって、栄養情報提供書をいただくことが増えているように感じます。ご利用者の事前情報のやり取りがきっかけで、他施設との連携が密になり、その後の入居者の情報共有がスムーズに、栄養ケアがより充実することをめざしていきたいです。(『ヘルスケア・レストラン』2022年11月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

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