デジタルヘルスの今と可能性
第87回
アインシュタイン級の能力が
月額200ドルで利用可能に

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。

AIのIQは157
アインシュタインレベルに

今回は多くの人が関心を持っている、生成AIについて話をしていきます。生成AIの進化は、私たちの想像をはるかに超えるスピードで加速しています。

特に2024年末から2025年初頭にかけて、OpenAIが相次いで発表した新モデルは、その飛躍度合いがとてもすごい。わずかな期間で矢継ぎ早に公開されたo1pro、o3-mini、そしてo3は、それぞれ〝推定IQ〞の面で大きな進歩を遂げており、医療を含む多くの分野で大きなインパクトを与える可能性があります。

まず注目したいのは、2024年12月6日に公開されたo1proがIQ118、2025年1月31日に公開されたo3-miniがIQ141、そして発表されたばかりのo3(o3はまだ利用はできない)に至ってはIQ157であり、アインシュタインのIQ160に迫るレベルであるという報告です。

もちろんAIの〝知能〞を人間のIQを単純に比較することには議論の余地がありますが、わずか数か月の間で「平均的な成人レベルから天才レベル」へと性能が向上している事実は、想像していた以上のスピードでAIが成長していることを裏付けるものです。

医療分野への応用として、この加速度的な進化を考えていくと、かつては画像診断の支援や問診票の作成など、比較的〝部分的なタスク〞を補完する存在だったAIが、今後は診断支援や治療計画、さらには研究や経営分析といった〝より複雑で多角的な業務〞に深くかかわってくるのではないかと考えています。

小規模クリニックでも高度なツールの導入は可能

新しいモデルの中でも特に実用性が高いとされているのが、2025年1月31日に公開されたo3-miniと、その高性能版であるo3-mini-highです。

o3-miniは従来モデルと比べて高速化されており、平均応答時間も短縮されています。しかも科学や数学、コーディングなど、従来のAIが苦手とされがちな分野で卓越した能力を示している点が大きな特徴です。特に、o3-mini-highは高いプログラミング能力があるほかに、博士号級の難問でも約80%の高正答率を叩き出しています。これほどの処理能力があれば、医療機関内で発生するデータ処理や統計分析、研究支援の場面でとても活躍すると考えています。

また、利用面でも興味深いのは、o1 proがChatGPT Proプラン(月額200ドル)で提供されているように、これらのモデルが比較的スピーディーに商用化され、広く利用できる体制が整いつつあることです。

先端的なAIであっても、特定の研究施設や大手企業だけが独占する時代は終わりに近づいています。小規模なクリニックや個人でも、必要な投資さえ行えば、このような高度なツールを自院の業務に取り入れられる可能性があるのです。

さらに2025年2月2日に公開されたDeep Research機能は、o3モデルを中核に据えた新たなAIエージェントとして大きな注目を集めています。ウェブ閲覧機能やプログラミングの実行環境を統合した仕組みであり、与えられたテーマについて5〜30分間にわたる徹底的なリサーチを自動で行って、出典付きの詳細なレポートを生成してくれます。

これがChatGPT Proプランのユーザー向けに先行公開されているので上記の月額200ドルを支払えば利用できています。これは、医療機関が研究やエビデンス収集を行う際に大きなアドバンテージとなりますし、実際に新薬や新しい治療法に関する学術論文を一括で収集・要約し、どのような症例にどの程度の効果が期待できるのか、システマティックレビュー論文の作成を迅速に行うことが可能になっています。

高度なAIを活用し本来業務に時間を割く

ますます進化する生成AIに合わせて、医療従事者のリテラシー向上も不可欠だと考えています。もちろんAIが飛躍的に進化しているからといっても、すべてを任せてしまうと誤診や見落としなど取り返しのつかない事態が起きるかもしれません。AIツールの特性や限界を理解し、人間の専門知識とAIの長所をどう組み合わせるかを考えることが大切です。

o3-miniとo3-mini-highのように同じモデル系列でも性能特性が異なることがあるので、その違いを把握したうえで適材適所に使い分ける必要があります。今後の見通しとしては、2025年以降もAI技術の進化は必ず加速していきます。

Deep Researchのような機能が一般化すれば、医療従事者や経営者はより短時間で多角的な情報を得られるようになり、意思決定の質とスピードを同時に高められると考えています。つまり、AIは〝人間の代わりにやる〞というよりも、〝人間の知的能力を補完し、より広い視点や最新のエビデンスをリアルタイムで提供する〞存在へと進化していきます。

結局のところ、医療の本質は医療従事者と患者さんの信頼関係やコミュニケーションだと考えています。その一方で、高度なAIを活用すれば、これまで手間や時間がかかっていた情報収集や分析、事務作業を効率化でき、医療従事者が本来のケアや専門性に集中するための余裕が生まれます。このように大きく変わりゆく時代だからこそ、このAIという新しいパートナーを賢く使いこなし、より質の高い医療を提供できる体制を築くことが重要です。

本当に今まさに、医療の大きな転換点に直面しています。AIのIQが3か月足らずで平均的レベルから天才水準にまで跳ね上がったように、今後も技術の変革は予想を超えた速度で進んでいくはずです。恐れるのではなく、この進化を前向きに捉えながら、医療従事者としての経験とAIの知能を融合することで、患者さんにとってより安心・安全で、かつ効率的な医療が提供できるようになると考えています。
(『CLINIC ばんぶう』2025年3月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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