DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
第75回
医師偏在対策は成功するのか
厚生労働省は昨年末、「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」を公表した。医師多数地域での開業規制や経済的インセンティブによる医師派遣機能の強化、医師養成課程の見直し––など、全世代の医師を対象とした施策が盛り込まれているのが特徴だ。今回は、その概要について紹介する。
医師偏在解消に向けた
総合的な対策パッケージ
今年の通常国会では、医師偏在対策や地域医療構想といった医療法の改正が予定されている。今回は、その概要について解説する。
厚生労働省の医師偏在対策推進本部は、2024年12月25日、地域や診療科による医師の偏在を是正するため、「総合的な対策パッケージ」をまとめた。具体的には、医師の確保、医療機関の連携、診療科の偏在是正、経済的インセンティブ、教育改革、制度の実効性確保―― など
の観点から、多面的なアプローチを導入し、24〜27年度にかけて順次実施する。主な内容は次の通りだ。
1.医師確保計画の実効性向上
(1)重点医師偏在対策支援区域の選定
・地域ごとの実態に応じた重点支援区域を設定。
・都道府県が、厚労省の「医師偏在指標」等を参考に医師不足が深刻な地域(100区域)選定。
・2次医療圏に限定せず、柔軟に選定可能。
(2)医師偏在是正プランの策定
・都道府県毎に、医師不足地域の支援策を盛り込んだ「医師偏在是正プラン」を策定。
・2025年度から一部施策を先行実施し、特に「診療所の承継・開業支援」を開始。
(3)医師偏在指標の見直し
・医師偏在指標が実態と乖離しないよう、2027年度の次期医師確保計画に向けて再評価。
2.地域医療機関の支え合いの仕組み
(1)管理者要件の見直し
・医師少数区域での勤務経験を要件とする病院を拡大(地域医療支援病院:約700→約1600)。
・医師派遣や指導業務経験を要件とする柔軟な勤務経験規定を導入。
(2)外来医師過多区域の新規開業制限
・新規開業医に地域医療機能の提供を要請。
・開業6か月前に予定診療機能を届け出ることを義務化。
・地域医療協議会への参加を求める。
・夜間・休日診療、在宅医療等の不足分野の提供を要請。
・要請を無視する場合、都道府県が勧告・公表。
・保険医療機関の指定期間を6年→3年に短縮。
・3年後に改善がない場合、さらに短縮可能。
(3)保険医療機関の管理者要件
・新たに保険医管理者の資格要件を設置。
・保険医資格を有すること。
・2年の臨床研修を修了。
・保険医療機関での3年以上の勤務経験。
3. 地域偏在対策における経済的インセンティブ
(1)重点区域での医師確保促進
・医師確保を進めるための経済的インセンティブを導入(2026年度予算編成)。
・診療所の施設・設備整備支援(2024年度補正予算で先行実施)。
・派遣医師・勤務医師への手当増額支援。
・土日・休日の代替医師確保支援、勤務環境改善支援。
(2)診療報酬への反映
・医師偏在対策に配慮した診療報酬制度の検討。
・偏在地域での医師勤務を促すため、診療報酬体系の見直しを実施。
・保険者による実施状況の確認を強化。
(3)医師不足地域向けマッチング支援
・中堅・シニア医師と医師不足地域医療機関のマッチング支援を強化し、定着を促進。
(4)リカレント教育の推進
・医師の生涯教育支援を拡大し、地域医療で求められる総合診療能力の習得を促進。
(5)都道府県と大学病院のパートナーシップ
・医師派遣・地域枠設置・寄附講座等の協定を締結し、医療機関との連携を強化。
4. 医師養成過程を通じた取り組み
(1)医学部定員・地域枠の見直し
・医師需給バランスを考慮しつつ、2027年度以降の定員適正化を検討。
・地域定着を促すため、地域枠の拡充・支援を強化。
(2)臨床研修制度の拡充
・「広域連携型プログラム」を導入し、医師少数地域での24週間以上の研修を義務化(2026年度開始予定)。
5.診療科偏在の是正
(1)医療の集約化と必要分野の支援
・地域医療構想を踏まえた医療の集約化を推進。
・外科医等の過重労働に対する負担軽減策・処遇改善策を強化。
6. 実効性確保のための評価・制度改革
(1)医療法への位置づけ
・医師偏在対策を「医療提供体制確保の基本方針」に明記し、法的な根拠を強化。
(2)効果検証とPDCAサイクルの導入
・施行5年目に対策の効果を検証し、必要な改善を実施。
・医師確保計画に基づく3年ごとのPDCAサイクルを導入し、柔軟に対応。
次回からは、特に診療所医師に関連するポイントを中心に、医師偏在対策の詳細について解説していく。
なお、図表にあるように、都道府県別の医療施設従事医師数に占める35歳未満医師数の割合は、栃木、千葉、東京、岡山、和歌山の各県が高く、医師多数県でも、熊本、徳島両県は15%未満と低くなっている。(『CLINIC ばんぶう』2025年3月号)
図表 35歳未満医師数の割合と医師偏在指標
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務