DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
第74回
医師の働き方改革の進捗状況
(専攻医編)

日本の医療は勤務医の長時間労働によって支えられてきた側面が強い。しかし、医師に無理を強いる現状を改革するために、2024年から医師の働き方改革が始まった。これによって医師の年間労働時間が960時間、月間労働時間が100時間未満に制限された。医師の働き方改革がスタートして以降、本当に現場の医師の負担は軽減されたのか。本稿では専攻医の声をもとに検証する。

見かけ上は減っても実態は変わっていない

厚生労働省が主導して、医師の働き方改革が進められている。なかでも専攻医については、「勤務時間が長い水準にある」など、改革のターゲットとなっている。医師の働き方改革を推進するにあたっては、勤務実態や働き方改革に対する意見などを現場の専攻医から収集し、検討を進めていくことが重要である。
そこで筆者は、この専攻医の勤務実態や働き方改革に対する意見を把握することを目的とした調査を行った。本稿ではその結果(概要)について報告する。なお、本調査は、全国955病院にアンケートを送付して、1027人の専攻医から回答を得たものである。

まず、労働時間であるが、見かけ上は短縮傾向にあるものの、その実態についてはあまり変わっていない可能性もある
当調査では過労死水準である年問の時間外労働時間が960時間以上と考えられる医師が37%、同1860時間以上の医師が8%、月5回以上当直をしていた医師が26%であった。この数字から依然として、専攻医が厳しい勤務環境に置かれていることは明らかであろう。当直明けの勤務が通常勤務である割合が40%と減少傾向にあることがみられる一方で、自死を日常的に考えている医師が6%と高くなっている。

自己研鑽と宿日直許可で労働時間が増えている可能性

もっとも、2020年に筆者が行った医師の働き方に関する調査の結果と比べると、長時間労働の医師は明らかに減っている。
その背景には、タスクシフト/タスクシェアなどの医師の働き方改革が進んだことがあると考えることもできる。しかし、当時はまだまだ浸透していなかった「医師の自己研鑽」の時間を労働時間に加えない点や、従来労働時間とみなされていた時間が、宿日直許可の取得が進んだことで、休息時間という取り扱いとなった点が影響している可能性も高い。これら事実を踏まえて、専攻医の長時間労働が本当に減っているのかについては、いくつか注意して考えるべき点がある。

第一に、医師の自己研鑽の定義については、厚生労働省が解釈を示しているが、労働と自己研鑽との区別が必ずしも明確ではないケースがあることが指摘されている。そもそも、専攻医の場合、「全ての業務が自己研鑽ではないか」という考え方もある。そのため実態としての労働時間は、より長くなっているのかもしれない。
第二に、近年、医療機関が医師の働き方改革の要件を満たすことができるように、宿日直許可が取りやすくなっているという指摘がある。専攻医が、宿日直という名のもとに通常労働を行っている場合があるのではなかろうか。そうした場合、実態としての労働時間は、以前よりも長くなっているのかもしれない。

専攻医のバーンアウトは改善傾向にある

また、専攻医についてはバーンアウト(燃え尽き症候群)になりやすいという問題が、世界的に言われている。
そこで、「日本版バーンアウト尺度」を用いて、専攻医の燃え尽き状況について評価を行ってみた。日本版バーンアウト尺度の三要素の内では、個人的達成感(PA)の平均点が2.4点/5点(20年調査で3.3点/5点)と最も高かった。
続いて情緒的消耗感(E)1.7点/5点(20年調査で2.7点/5点)、脱人格化(D)1.0点/5点(20年調査で1.9点/5点)という順になった(点数が高いほうがバーンアウトの可能性が高い)。
20年の調査結果と比べると、日本版バーンアウト尺度の三要素のいずれにおいても、点数が低下しており、日本の専攻医の燃え尽き症候群の傾向は低下していた。その背景には近年、医師の働き方改革が進められていることに加えて、20年はCOVID-19が流行した年であり、現場医師にさまざまなストレスがかかっていたが、それらが解消されたことも関係していると考えられる。

働き方改革の推進による医療の質・安全の低下を懸念

アンケート調査に回答してくれた医師の51%が自身の労働時間について「とても長い・やや長い」と回答していた。その負担を解消あるいは緩和するために希望することとしては、「給与や手当の増額」「医師や医療クラークなどの増員」「専門医取得や研究など、キャリア形成の支援」などが挙がっていた。
また、医師の働き方改革が、「専攻医が提供する医療の質・安全にもたらす影響」について聞いたところ、36%が「かなり向上するまたはやや向上する」と回答していた一方で、「やや低下するまたはかなり低下する」と回答した人たちも24%いた。

加えて、医師の働き方改革が、「専攻医の研修の質にもたらす影響」について聞いたところ、30%が「かなり向上するまたはやや向上する」と回答した。ただし、「やや低下するまたはかなり低下する」と回答した医師も29%おり、これについては良い影響、悪い影響がかなり拮抗している。このように、専攻医は働き方改革推進による医療の質・安全の低下を懸念していることが示唆された。

医師の働き方改革を推進していくためには、労働時間の短縮や医師の健康確保に資する施策、労働に対するきちんとした対価の支払いに加えて、医師体制の充実や効率化(医療機関の集約化や医師の地域・診療科偏在対策、タスクシフトの推進など)を強力に進めていく必要がある。

次回からは、今年法改正が予定されている、医師の偏在対策を取り上げる。(『CLINIC ばんぶう』2025年2月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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