デジタルヘルスの今と可能性
第67回
【過去News】2030年に向けた医療DXの
イメージと工程表が発表(2023年6月)

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、政府の掲げる「医療DX」について、2030年へ向けたイメージとその工程表について解説していく。

医療DX推進に関する基本的な方向性が決定

今回は、6月に「医療DX」について政府が掲げる2030年へのイメージとその工程表が示されたので、読者の皆様とも共有していきたいと思う。

日本における医療DXは、22年10月1日に閣議決定し設置された、岸田文雄首相を本部長とする会議体「医療DX推進本部」で議論が進められてきた。内容は昨年の「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる骨太の方針でも示されていた、▽全国医療情報プラットフォーム、▽電子力ルテの標準化、▽診療報酬改定DX――の3つが中心だ。
医療DX推進本部だけではなく、医療DX推進本部幹事会や関係省庁でも具体的な施策について検討が行われ、まとめられた内容は司令塔である医療DX推進本部へ報告。そして、今年6月2日の「第2回医療DX推進本部」にて一旦の方向性が決まった。その成果の一つが、「医療DXの推進に関する工程表」である。

そもそも医療DX推進の基本的な考え方として、政府は次の5点の実現を目指そうとしている。

①国民のさらなる健康増進
②切れ目なく質の高い医療等の効率的な提供
③医療機関等の業務効率化
④システム人材等の有効活用
⑤医療情報の二次利用の環境整備

先述した3つのテーマとの関係としては、最終的に目指すのは「全国医療情報プラットフォーム」が成立した状態であり、そのためには「電子カルテの標準化」が求められ、診療報酬改定時の負担を減らすため、「診療報酬改定DX」を行おうとしている。

まず、電子カルテの標準化については遅くとも2030年までに、ほぼすべての医療機関で必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指すことは示された。これは、昨年5月17日に自由民主党政務調査会が公開した「医療DX令和ビジョン2030」のなかでも、「電子カルテ普及率の目標値を、26年までに80%、30年までに100%とする」と書かれていたものである。この内容が、自民党の資料としてではなく、政府資料として発表されたことが、非常に重要だ。

標準型電子カルテは、政府と厚生労働省・デジタル庁が協働しクラウド型を開発しようという方針が打ち出されている。23年度中に必要な要件定義などに関する調査研究を行い、24年度から開発に着手するようだ。

20年の厚労省のデータによると、電子カルテの普及率は一般診療所で49.9%(5万1199施設/10万2612施設)、一般病院は57.2%(4109施設/7179施設)と、いずれも50%前後であり、今まで電子カルテを導入していなかった医療機関も含めて、30年には導入が進められていくことになる。

マイナカードも絡む情報連携ネットワーク

全国医療情報プラットフォームの構築は、「オンライン資格確認等システム」の拡充によって進められる。すでに開始している電子処方せんの全国普及促進に併せて、「電子カルテ情報共有サービス(仮称)」をつくっていき、医療機関の間で情報共有ができて、情報の範囲も拡大していく方針だ。
また、マイナンバーカードの利用により、介護保険、予防接種、母子保健、公費負担医療や地方独自の医療費助成などに関しての情報連携も進めていく。なお、24年秋には従来の健康保険証を廃止し、マイナカードとの一体化を進めていく。
こうしたマイナカードによる情報連携では、「かかりつけ医以外の医療機関を受診しても、必要な電子カルテ情報が共有され、スムーズに診察が受けられる」ような世界観が想定されている。

なお、工程表では23年度、24年度、25年度、26年度~というフェーズごとにまとめられている(図)。ここで、新たに注目したいのが、社会保険診療報酬支払基金だ。支払基金では、現行の保険診療の審査支払機能に加え、上記の「医療DXに関するシステムの開発・運用主体」の母体となっていくことが考えられている。社会保険診療報酬支払基金の神田裕二理事長は、16年に私が厚労省にいたときの医政局長で、もちろん、政策動向にも超がつくほど詳しい御仁。どうなっていくのか楽しみだ。


臨床に従事していると、なかなか時代の変化や情報を感じにくくなり、社会があまり変わっていないように感じることもあるだろう。しかし、それ間違いで、医療領域においてもデジタルが完全に入り込んできた。おそらく、24年度末には、より多くの人が感じるところになるはずだ。
自院で取り組むのは大変だと思っても、デジタルの変化の方向に社会はゆるやかであっても進んでいくため、デジタル導入の機会がある場合は、ぜひ早めに準備を進めてほしいと考えている。(『CLINIC ばんぶう』2023年7月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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