デジタルヘルスの今と可能性
第66回
「NFT」が変えるのは
コミュニティ形成のあり方
「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、世間でも聞く機会の増えた「NFT」とは何か、今後医療界とどのようにかかわっていくのか、解説していく。
昨今話題となっている「NFT」とは?
今回は、「NFT」の話をしていく。「NFT」「メタバース」「DAO」「Web3」という言葉が、デジタルテクノロジーとして注目をされているのはご存じだろうか。これは、自著『医療4.0』を出した2018年あたりに、「人工知能(AI)」「IoT」「ビッグデータ」「ロボティクス」「5G」「ブロックチェーン」「AR/VR/MR」――といった言葉が注目されていたのと同様だ。
18年当時は新しい言葉・概念だったこれらは、今では当たり前に使われる言葉になった。今回、話をしていく「NFT」ほかも、5年後、むしろそれよりも早く一般化していくと考えられる。
「NFT」とは、「Non-Fungible Token」の略である。日本語にすると「非代替性トークン」だが、これだけ聞いてもわけがわからないだろう。簡単に言うと、WEB上のデジタルデータに取引情報を記録できる仕組みだ。つまり、「今そのデジタルデータを誰が持っているか」「誰が最初にブロックチェーン上に記録をして、誰から誰に送信されて持っている人が変わっているか」などがわかるのだ。
なお、「ブロックチェーン」については前述のとおり、17~18年には出てきた言葉なのでご存じの読者も多いと思うが、復習も兼ねてもう一度ご説明すると、「取引記録を分散(全員で共有する)して管理するもの」だ。
たとえば、現在の銀行などは、誰がどれくらいの預金を持っているのか、その支払い記録などを、その銀行自身で持っている中央集権的な仕組みである。「ブロックチェーン」では、特定の管理者がいない状態で取引記録を管理する仕組みであるため、独占的にならず、セキュリティーも高い。多くの人によって民主的に管理しようとしているといった点が特徴で、これからの時代の社会インフラになると考えられている。
一点物のデジタルアートからシリーズ化ヘトレンド変遷
閑話休題。「NFT」ができたことで、従来デジタルデータはコピーが容易なために価値が低いと思われていたのに対し、コンテンツやアートに対しての価値ができ、価格がつくようになった。具体例としては、21年3月に「Beeple」というデジタルアーティストの作品に、オークションで75億円の価格がついた。
ただ、現在では一点物のNFTアートという流れからトレンドが変わってきているようで、21年後半から現在まで続いているのは、「コレクティブNFT」というジャンルだ。簡単に言うと、シリーズ化されているNFTである。
たとえば、昨今の有名どころだと、海外の『CryptoPunks(クリプトパンクス)』『BAYC(Bored Ape Yacht Club/ベイシー)』、日本でもCNP(Crypto Ninja Partners:クリプトニンジャパートナーズ)』『Musubi Collection from Ninja DAO』などがある。これらは、NFTのマーケットプレイスで購入することができる。
ただ、購入手順は少し複雑で、Amazonや楽天などのように普通に日本円で買えるわけではなく、「イーサリアム」という暗号資産(仮想通貨)に換金し、METAMASKなどのウォレットにいれて接続しないと買えない。私も「CryptoPunks」や「BAYC」は買ってみたいが、実のところ、これらの価格は現在50ETH(イーサ:イーサリアムの通貨単位)出しても販売していないくらいの人気ぶりだ。現在の1ETH当たり約25万円なので、50ETHは約1250万円と換算すれば、その勢いがわかるだろう。
「NFT」は最初、投資というか投機として22年末から23年当初は盛り上がっていたが、3月ごろから投資熱は徐々に下がってきており、ようやく本格的な「NFT」の活用について模索が始まってきているのが現在と言える。
NFTが変えるコミュニティ形成
さて、ここからがやっと本題だ。「NFT」の使い方の一つに、「コミュニティの参加権」というものがある。「NFT」を活用すると、その人がどのような人物か、今まで以上にわかるということだ。
たとえば、今は銀行の口座番号がわかったとしても、その人がどれだけ貯金しているか、どのような用途にお金を使っているのかなどはわからなかった。
これが、「NFT」を活用してそのアドレスがわかれば、連携されたウォレットの残高や利用履歴がわかる。例えるなら、家の本棚を見れば家主の性格がわかるといったものと同じかもしれない。
それに加えて、いつどのようなものを誰から買ってもらったり、何をいついくらで売り渡したりしたのかなどもわかる。言ってしまえば、他の人から持っていてもらいたいとプレゼントされたNFTを、もらってすぐに値段がつけば即刻売り払った場合も、見たら一目瞭然だということだ。そんな人には、誰ももうNFTのプレゼントをしなくなるかもしれない。
今まで、コミュニティ形成するときは、「うるさいことを言って場を乱す」人だけが目立つため、その人についてはコミュニティから退会してもらうなどしてもらっていたが、NFTにおいてはウォレットを見ることで、その人がどのようなコミュニティに属し、誰とつながっているのか、どれだけ社会貢献の気持ちをもって積極的に活動しているのか、などがわかったりするのだ。
今までは、その人が「発信」している情報や、周囲の人が言っていることしか判断材料にならなかったのだが、判断材料が増えると言えるだろう。
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今回お話ししたことは、直接的に明日の医療には影響しない技術かもしれない。しかし、時代が大きな転換点を迎えているなかで、今やっていることができていることが、できなくなる可能性は、この5年以内で十分に起こり得る。
昔は駅の改札で切符を切る職員がいたが、今は自動改札機が当たり前になり、そのような作業をする人はいなくなった。
AIだけではなく、NFTといった新たなテクノロジーの動向にも十分注意しておいてもらいたい。医療界の関係者がわかっていなかったとしても、社会は明らかに大きく変わってきているのだ。(『CLINIC ばんぶう』2023年6月号)
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上