DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
第57回
医療施設調査から読み解く
診療所の状況⑥
「医療施設調査」の結果を用いて診療所の状況に関する分析を行っていく。6回目は、在宅医療について、在宅療養支援診療所の数や患者数といったのデータを用いて現在の状況を検証していく。
厚生労働省の「医療施設調査」は、動態調査を毎年、静態調査を3年ごとに実施し、後者は前者と比べて項目が充実している。関心がある方は、e-Stat(政府統計の総合窓口)で検索してみてほしい。
在宅療養患者数は約10年で4倍ほどに増加
在宅療養支援診療所(在支診)は、在宅療養患者数の増加を受けて増加傾向にあるが、地方を中心に24時間対応といった体制確保に課題があると言われている。
表では、2008年および20年における、在支診数、在宅療養患者数、在支診当たりの患者数を比較している。患者数は08年の約19万人から20年には約76万人と4倍近くまで急増している。
この背景には、後期高齢者人口の増加に加え、要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい生活を最期まで続けられるように、地域内で助け合う体制である「地域包括ケアシステム」の浸透に向けた、診療報酬をはじめとするさまざまな政策的誘導があったためと考えられる。
一方、在支診の数の伸びは微増程度だ。これには在支診の要件として、患者の連絡に対し24時間対応が求められるなど診療体制面の負担が大きいことから、参入障壁が比較的高く見られていると推察される。
他方、在支診当たりの患者数は17人から52人へと、約3倍になっており、受け持つ患者数の規模拡大は続いている。
表 在支診数、在宅患者数、在支診当たりの患者数の推移
次に、図は在支診当たり在宅療養患者数について、規模別の分布を08年と20年で比較したものだ。受け持つ患者数が20人未満、おそらくは外来と並行して在宅も行っているだろう在支診が依然として大きな割合を占めている。
ただ、150人以上という規模の大きい在支診が、08年の199軒から20年には1152軒と大幅に増加している点は注目したい。
在宅医療に特化し、常勤医師3人以上を抱えるような機能強化型在支診の増加にともない、在宅医療を大規模化する診療所が増えているということだろう。
図 2008年と2020年における在支診の受け持ち患者数の推移
都道府県別に見る在支診と在宅療養患者の状況
続いて、在宅医療に関しては地域差も大きいところから、▽在支診の数、▽在宅療養患者数、▽在支診当たりの患者数、▽75歳以上の人口1000人当たり患者数、▽在宅看取り件数、▽在宅看取り件数÷在宅療養患者数(割合)――など、在宅医療における主要なアウトカムを含む項目について、都道府県別に比較してみた。
■在支診の数
在支診は大阪府が1772カ所で最も多く、次いで東京都、兵庫県が続いた。逆に最も少なかったのは高知県で、福井県、山梨県の順に少なかった。最も多い場所と少ない場所の差異は、46.5倍と非常に大きくなっている。
■在宅療養患者数
在宅療養患者数が最も多いのは東京都(12万5000人)で、次に大阪府、神奈川県が多かった。一方、福井県は1169人で最も少なく、次いで秋田県、岩手県が続いている。この場合、最も多い場所と少ない場所の差異は106.9倍と、在支診の数よりもさらに大きかった。
■在支診当たりの患者数
一番多かったのは神奈川県(96.2人)で、次いで千葉県、埼玉県が続き、逆に一番少なかったのは徳島(17.0人)で、広島県、福井県県の順に少なかった。最も多い場所と少ない場所の差異は、5.7倍である。
■75人以上人口1000人当たりの患者数
最も多かった東京都が73.4人に次いで、神奈川県、大阪府の順で多かった。一方、最も少なかったのは岩手県の9.3人で、福井県、秋田県が続いた。なお、最も多い場所と少ない場所の差異は、7.9倍だった。
■在宅看取り件数
東京都が1551件と最も多く、神奈川県、大阪府が続いた。一方、最も少なかったのは高知県の38件で、次いで徳島県、福井県が少なかった。また、最も多い場所と少ない場所の差異は、40.8倍と、かなり大きくなっている。
■在宅看取り件数÷在宅療養患者数(割合)
新潟県が5.6%で最も多く、次に岩手県、福井県の順で続いた。逆に、鹿児島県は1.1%で最も少なく、次いで大阪府、東京都の順に少ない。最も多い場所と少ない場所の差異は、5.3倍だった。大阪府や東京都は、患者数が多い割に看取り件数が少ない傾向が見て取れる。
在宅医療が普及しない地域の要因とは
以上の地域差をどのように考えるべきか。在宅医療の普及しない地域の要因でよく議論に挙げられるのは、「医師不足」「既存医師の高齢化によるマンパワー不足」「看護師不足」「移動距離が長く採算が合わない」などだ。これらの状況に対し、夜間往診をサポートする民間企業の活用や、在支診グループの分院進出、オンライン診療の活用などが、課題解決に資する一手になるかもしれない。
後期高齢者.要介護者のさらなる増加、入院患者の在宅へのシフトによって、在宅療養患者は今後より増加していくことが予想される。現在普及していない地域であっても、伸びしろがあるという解釈もできる。実際に、在宅医療の実施を検討されている院長は、今回のデータを参考にしてはいかがだろうか。(『CLINIC ばんぶう』2023年6月号)
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務