DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
第56回
医療施設調査から読み解く
診療所の状況⑤

「医療施設調査」の結果を用いて診療所の状況に関する分析を行っていく。5回目は、診療所における電子カルテや遠隔診療の導入状況について、検証する。

厚生労働省の「医療施設調査」は、動態調査を毎年、静態調査を3年ごとに実施し、後者は前者と比べて項目が充実している。関心がある方は、e-Stat(政府統計の総合窓口)で検索してみてほしい。

診療所の電子カルテ導入率はいまだ半数程度にとどまる

図は、2008年から20年の3年ごとにおける電子カルテの導入状況の推移だ。全体導入済と一部導入済を合わせた総導入率は08年の14.7%から20年には49.9%へと急増しているが、依然として約半数はまだ電子カルテを導入していない。
導入予定の診療所は4.3%にとどまり、現時点で導入を検討していない診療所は今後もほぼ導入しない方針を示している。この背景には、紙カルテ運用に慣れている、あるいは必ずしもITリテラシーが高くない高齢の開業医が関係していると思われる。他方で、新規開業の医師の大半は電子カルテを導入すると言われ、導入率は今後も上がっていくと思われる。
近年はカルテ作成を効率化する機能や、エビデンスに基づく診断予測機能などの追加機能も見られる。価格帯も低下傾向にあり、医事会計システム(レセコン)も含めて無料提供する会社も登場し、普及を後押しするだろう。

医療ITインフラ関連の都道府県別の比較

表では、次のような項目の都道府県別の状況を見ていく。

■電子カルテの導入率

電子カルテを導入する診療所の割合は、沖縄県が61%と最も高く、長野県、東京都が続いた。逆に、最も低いのは徳島県(38%)で、次いで奈良県(39%)、新潟県(40%)の順だった。最も高い県と低い県の差異は1.6倍である。

■医療情報のクラウド保管割合

医療情報をクラウドで保管している診療所の割合は、和歌山県が最も高いものの19%で、次いで福島県(19%)、愛知県(18%)の順に高かった。逆に、低かったのは香川県(8%)、富山県(8%)、青森県(9%)の順で、最も高い県と低い県の差異は2.4倍とかなり大きくなっている。

■患者への情報提供時に電子的な方法で提供する割合

ここでは奈良県(29%)が最も高く、和歌山県(25%)、宮崎県(24%)が続いた。一方、最も低いのは山形県の14%で、次いで石川県(14%)、島根県(17%)の順に低い。また、高い県と低い県の差異は2.1倍だった。

■遠隔画像診断・遠隔病理診断の導入率

まず、遠隔画像診断の導入率が最 も高いのは香川県だが3.4%程度で、鹿児島県 (2.9%)、熊本県(2. 6%)が続く。逆に、愛媛県は0.7%で最も低く、滋賀県(0.8%)、石川県(1.0%)が続いた。最も高い県と低い県の差異は5.1倍とかなり大きい。
次に、遠隔病理診断の割合は、山形県が最も高いが0.9%であり、次いで新潟県(0.7%)、徳島県(0.7%)が高かった。逆に、滋賀県、鳥取県、高知県はいずれも0% という結果だった。

現在、マイナポータルによる患者の医療情報へのアクセス確保が進められるほか、今年4月からはマイナカードの健康保険証としての活用も本格化している。そのほか、日々の生活情報の共有やオンライン診療に資するシステムなど、今後もさらに医療DXに向けたツールが現場に導入されるだろう。ぜひ、自院の導入方針も検討してほしい。(『CLINIC ばんぶう』2023年5月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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