DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
第55回
医療施設調査から読み解く
診療所の状況④

「医療施設調査」の結果を用いて診療所の状況に関する分析を行っていく。4回目は、前回に引き続き診療所の主たる診療科の推移・地域差について、さらに検証していく。

厚生労働省の「医療施設調査」は、動態調査を毎年、静態調査を3年ごとに実施し、後者は前者と比べて項目が充実している。関心がある方は、e-Stat(政府統計の総合窓口)で検索してみてほしい。

精神科・皮膚科で患者大幅増
外科・小児科は大きく減少

表1は、2008年から20年までの3年ごとにおける各診療科の年間患者数の推移を取りまとめている。精神科は+40.5%、皮膚科は+30.5%と大きく増加しており、これらの診療科への需要が増大していると言える。
他方、外科系は▼30.8%、小児科で▼20.2%と大きく減少した。
後者については、08年から17年にかけてむしろ増加傾向にあり、20年は新型コロナウイルス感染症の流行による受診抑制の影響を受け、一時的に減少している点を考慮する必要があるだろう。

続いて、表2は表1のデータを用いて、診療所当たりの年間患者数の推移を同様に取りまとめたものである。まず、診療所数が最も多い内科は、08年の799人から20年には751人と6.1%の減少となっていた。

変化が著しかったのが、皮膚科(+21.1%)、小児科(▼24.7%)、耳鼻咽喉科(▼23.0%)だ。表1と合わせて読むと、皮膚科の診療所当たりの患者数の成長率と比べて、精神科の当該指標の伸びは抑えられており、需要の伸びに応じた供給がなされているという見方もできるだろう。小児科・耳鼻咽喉科の患者数大幅減は、新型コロナによる影響が考えやすい。

標ぼう科別の人口10万人当たりの診療所数の地域差

次に、診療科の標ぼう状況を都道府県別に見ていく(表3)。いずれの項目も人口10万人当たりの診療所数を示している。

■皮膚科を標ぼうする診療所

東京都19.2カ所と最も多く、大阪府、京都府が続いた。逆に、少なかったのは、北海道、新潟県、宮崎県の順だった。最も多いところと少ないところの差異は3.8倍と比較的大きくなっている。

■耳鼻咽喉科を標ぼうする診療所

東京都が6.4カ所と最も多く、次いで大阪府、京都府と、皮膚科に近い傾向を示した。一方、少なかったのは岩手県、青森県、長野県の順だった。なお、最も多いところと少ないところの差異は2.3倍だった。

■産婦人科を標ぼうする診療所

最も多いのは和歌山県の3.5カ所、東京都、長崎県が多く、北海道、埼玉県、茨城県の順に少なかった。また、最も多いところと少ないところで2.5倍の差異がある。診療所はローリスク分娩を取り扱っている場所も多く、周産期医療体制の充実を考えるうえで重要な役割を果たしている。

■精神科を標ぼうする診療所

東京都が10.0倍と最も多く、大阪府、島根県が続いた。逆に少なかったのは、鹿児島県、石川県、茨城県だ。最も少ない鹿児島県は診療所総数では全国平均より高く、診療科による供給の違いという点で興味深い。また、最も多いところと少ないところの差異は3.2倍と比較的大きい。

なお、その他診療科から近年増加率の高い美容外科も取り上げる。東京都が3.4カ所で最も多く、大阪府、石川県が続いた。一方、島根県、岩手県、山形県が少なかった。最も多いところと小さいところの差異が23.1倍とかなり大きくなっている。

前回に引き続き、診療科の標ぼう状況は都道府県間で大きな差異があった。今後、自院の診療機能を強化する上で、このようなデータを用いて、診療科の追加や変更を検討する余地があるだろう。次回も引き続き、診療所の状況について見ていく。(『CLINIC ばんぶう』2023年4月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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