DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
第54回
医療施設調査から読み解く
診療所の状況③
前回から引き続き、「医療施設調査」の結果を用いて診療所の状況に関する分析を行っていく。3回目の今回は、診療所の主たる診療科の推移や地域差について、どのような診療科で標ぼうの増加・減少したと思われるかなど、実際のデータを用いて検証していく。
厚生労働省の「医療施設調査」は、動態調査を毎年、静態調査を3年ごとに実施し、後者は前者と比べて項目が充実している。
関心がある方は、e-Stat(政府統計の総合窓口)でぜひ検索してみてほしい。今回は、診療所における診療科の推移や地域を読み解いていく。
標ぼうは精神科が増加し小児科・産婦人科等が減少
表1は、2008年から20年までの3年ごとに各診療科を標ぼうする診療所数の推移をまとめたものだ。最も多い内科は、08年から20年で1.7%増にとどまる一方、大きな変化があったのは、外科(▼18.9%)、小児科(▼16.5%)、産婦人科(▼18.1%)、精神科(+28.3%)だ。
小児科・産婦人科の減少は少子化の影響、精神科の増加はメンタルクリニックの増加を反映していると思われる。
表2はさらに深掘りし、診療所当たりの年間初診患者数の推移である(調査の関係上、複数の診療科を標ぼうする診療科のデータであること留意されたい)。標ぼうの最も多内科018年(84人)から20年(68人)で18.2%も減少していた。そして、変化では小児科(▼30.8%)、皮膚科(+11.5%)がある。
内科・小児科は20年以降のコロナ禍で一時的に受診抑制があった影響が大きいと考えられるが、減少幅は大きかった。他方、皮膚科はむしろリモートワークの普及により自分の時間ができたことで美容への意識が高まり、患者が増加したという意見もあるようだ。
なお、表1で減少が大きかった外科・産婦人科では初診患者数の変化はあまりなく、需要の減少に合わせ供給が減ったという見方を補強するものと考えられる。
都道府県別に比較した診療科の標ぼう状況
次に、診療科の標ぼう状況について、都道府県別に人口10万人当たりの診療所数で比較していく(診療所総数については、前回以前に触れているため割愛する)。
■内科を標ぼうする診療所
島根県が80カ所と最も多く、和歌山県(77カ所)、徳島県(72カ所)が続いた。逆に、最も少ないのは沖縄県(36カ所)で、北海道(37カ所)、千葉県(38カ所)の順だった。これらの大小は診療所総数の傾向に近かった。また、最も多い県と少ない県の差異は2.2倍と、それなりに大きい。
■外科を標ぼうする診療所
長崎県(18カ所)が最も多く、次和歌山県(18カ所)、徳島県(18カ所)の順に多く、北海道(5カ所)、新潟県(6カ所)、神奈川県(7カ所)の順に少なかった。こちらも、診療所総数の傾向に近く、さらに、最も多いところと少ないところの差異は3.4倍と内科以上に大きくなっている。
■眼科を標ぼうする診療所
東京都が9カ所で最も多く、次いで大阪府(8カ所)、兵庫県(8カ所)が続いた。逆に、少なかったのは栃木県(4カ所)、北海道(5カ所)、青森県(5カ所)の順だった。最も多い県と少ない県の差異は、2.1倍である。
■整形外科を標ぼうする診療所
徳島県(16カ所)が最も多く、次いで長崎県(14カ所)、大阪府(13カ所)の順で多く、北海道(7カ所)、新潟県(7カ所)、千葉県(8カ所)の順で少なかった。最も多い県と少ない県の差異は2.4倍である。
■小児科を標ぼうする診療所
岐阜県(27カ所)が最も多く、徳島県(25カ所)、愛知県(23カ所)の順で続いた。一方、最も少なかったのは岩手県(8カ所)で、北海道(9カ所)愛媛県(10カ所)の順だった。
なお、最も多いところと少ないところの差異が3.6倍と、かなり大きい。
*
このように、診療科の標ぼうの状況は、都道府県間で大きな差異があることがわかった。今後、自院の診療機能を強化するうえでは、このようなデータを効果的に活用して診療科の追加や変更を検討する余地があるだろう。
次回も引き続き、診療所の診療科別の状況について見ていく。(『CLINIC ばんぶう』2023年3月号)
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務