デジタルヘルスの今と可能性
第62回
2023年の動向を大胆予想!
新しい時代への転換は近いか

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、2023年がどんな年になり、その先の時代の転換点に何が起きるのか、予想していく。

2023年は“革命前夜”?
シンギュラリティは目の前

2023年、あけましておめでとうございます。本稿の執筆時期が年初のため、今回は新年にふさわしく23年がどのような年になるのか、そして、2030年に向けて社会がどのように変わっていくと考えているのか。経済的な視点のほか、私の妄想もとい想像も交えてお話したいと思う。

本稿の掲載が2月号のため、読者の方々は23年になって1カ月ほど経っていると思うが、どんな年と感じているだろうか。私は、「革命前夜」のような感覚で捉えている。というのも、22年末に想像していなかったテクノロジーの進歩が起きているためだ。
皆様も使われたことがあるかもしれないが、AIを活用した自然言語処理ツールである「ChatGPT」は、チャットで質問すると人間相手のときと同じような感じで正確な回答を会話形式で返信してくれる。
たとえば、自著の『医療4.0について教えてください』と質問した際の回答が、画像のとおりである。この返信を十数秒程度で返してくれた。

「ChatGPT」の使用イメージ

ほかにも、22年末にはAIによ文字起こしツールや、音楽や絵一瞬で創り出すAIをはじめとする「生成系AI」と呼ばれるものが多く使われるようになってきている。使い方はさまざまだが、たとえば、セミナーやYouTube動画の内容を早く理解しようと思ったら、「Whisper」を使って文字起こしをした文章を、「ChatGPT」を使ってまとめさせれば、要約された内容だけを読むことが可能になっている。

よく「シンギュラリティ」(技術的特異点)と呼ばれる、人間の脳と同レベルのAIが誕生する時点に関しては、今まで「2045年」と言われていたのですが、最近、早ければ「2025年」には到来するのではないかとの予測さえ報告されている。
このように、AIをはじめとするテクノロジーができることは、テクノロジーに任せて、人間は人間でないとできないことに集中して、テクノロジーをうまく使いこなさないといけない時代がすぐ目の前に来ているのだ。そのため、「革命前夜」なのである。2025~26年には、私たちは今とまったく異なった社会で生きているのではないかと思っている。

不況の波のなかで生き残る「サバイバル」な経営環境に

そして、23年に対してもう一つ思っているのが、不況である。日本銀行の金利政策も上がってきて、物価上昇も依然として続き、購買意欲の低下が生じていくのが23年だと予想されている。
この点医療は、病気になれば受せざるを得ないものであるため、不況には比較的強いと言われているが、保険診療の点数が物価上昇にどれだけ弾力性を持って対応できるのかが懸念事項だろう。このように、今までと違った経営環境となり、一種の「サバイバル」要素も含んでくるのが23年だ。
そのようななかで、今年は昨年以上に「自分が何をしていくべきか」という社会的な役割を見つめ直す年にもなると思っている。ちょうど11年の東日本大震災から12年。干支が一周して、改めて次の時代に向けて自分がこのまま取り組み続けること、やめることなどを整理して、自らの向かう方向性を決め直すことが必要だと考えている。

まだ新しいことを始められていない人は、「新しいこと」を始めるべきだと思うし、それも理論的に考えても少し先さえ見通しづらい時代なので、直感に身を任せていくでもいいのではないかと考えている。「理論的に考える」とは、前の時代の価値観から積み上げて考えてしまうことになるが、それが通じないというわけだ。
新しいことを始めるために、環境を変えるのもいいのかもしれないし、いずれにしても、まだ今のように先の見えないときは、自分信じた勢いを大切にしていただきたいと思っている。

新しい社会システムへの転換はすぐ近くに来ている

最後に、30年に向けてもう少し先の未来を想像していくと、戦後から始まった現代は、25年くらいで寿命なのではないかと考えている。医療分野でも、1960年代から始まった皆保険制度は高齢者が少ない時期に考えられたため、今の超高齢社会を想定したシステムではない。若者が高齢者を支えるという制度設計自体が合わなくなりつつある「制度疲弊」が起きていると感じている。
さらに、何度も言っているが、24年以降の劇的な社会変革、医療の場合は医師の働き方改革などによって従来の社会システムの問題が露呈し、立ちいかなくなっていくと思う。これの流れは医療だけではなく、社会全体のいたるところで生じるだろう。
たとえば、資本主義もその経済システムの限界から民主社会主義(新しい社会主義)のようなシステム転換されるかもしれないし、SDGsを意識した脱炭素社会に変革されていく可能性もある。戦後から続いてきた今の価値観は、近く終わるのではないか。
そして、正確な年は定かではないが、26年あたりからはまったく新しい時代だ。古いシステムを根本から変え、新しい社会システムに置き換わっているはずで、正直想像できない。予想するなら、5Gやその次の6Gが実用化され、自動運転も当たり前になっているかもしれないし、ドローンももっと飛び回っているかもしれない。メタバースのような仮想空間や、「ChatGPT」などのAIが当たり前になっているのか。
今から予想できるものは少ないが、ライフスタイルの基盤が新しくなって、それこそ「ニューノーマル」になっていると思っている。
それとともに、医療も新しいテクノロジーの利活用が当然となっていて、多くの人が働き方を変えるなか、医師をはじめとする医療従事者の多くもその流れに乗っているはずだ。

23年は「革命前夜」、劇的な変化の前触れであると同時に、いろいろな変化に適応して生き長らえないといけない「サバイバル」要素を含んだ1年になると思っている。この大きな変化の時代を、私自身も楽しんで生きていきたいと思っている。(『CLINIC ばんぶう』2023年2月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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