デジタルヘルスの今と可能性
第61回
デジタルヘルス時代に際した
大変革との相対する姿勢とは

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、医療DXの波に際した診療所の姿勢を考える。

政府内で進む医療DXへの動きと『医療4.0』

本連載も今回で6年目に突入した。政府もいよいよオンライン診療やAIの活用を進めると明言した2022年。デジタルヘルスの時代になりつつあり、23年も本連載を引き続きよろしくお願いします。今回は、そんなデジタルヘルスの時代に診療所が意識しておきたいことを考えてみる。

まずは、自分の話からになるが、22年11月末に自民党本部へ行く機会があった。自民党内には日本のデジタル社会推進の方向性について検討している「デジタル社会推進本部」があり、その議論の場に有識者として参加・発表する大役をいただいたからだ。
今までの本連載でも触れてきた、「医療DX令和ビジョン2030」(22年5月17日)を提言した自民党内の組織である。以前も紹介したとおり、「骨太の方針2022」などで書かれている医療分野の今後の方針は、「医療DX令和ビジョン2030」の内容から現在の状況に合わせて設定されそうな部分が盛り込まれていた。
総理大臣を本部長とする「医療DX推進本部」の設置や、全国医療情報プラットフォーム、電子力ルテの標準化などは、骨太の方針よりも先にこちらで記載されている。今後の医療DXの方向性を一番予想しようと思ったら、「医療DX令和ビジョン2030」を読み解けば、これから政策になっていきそうなことがわかるだろう。
たとえば、インパクトのありそうな話では、「電子カルテ普及率目標値を、26年までに80%、30年までに100%とする」とあり、現在約50%の電子カルテ普及率を、30年までに100%にすることを目指している。

参加した当日は、今から30年に向けた医療の方向性について、意識しなければならないことについて、自著の『医療4.0』も交えて話した。
『医療4.0』の世界観のキーワードは、①多角化、②個別化、③主体化――の3つだが、①は、医療提供が医療機関だけではなく「家庭」でも行われるようになること。②は、医療ビッグデータを多数の人のデータだけでなく、「個人」の多種のデータから考えられ医療提供されるようになること。最後の③は、医療の中心が医師ではなく「患者・生活者」となることだ。
特に③では、今は医師法により診断や治療に関することは医師でないとできないが、AIやセンサーなど、IoTをはじめとするテクノロジーが発展すると、10年後には個人データをもとに診断や治療方針を決定する機能は、テクノロジーでできる可能性があるといった話をしてきた。
もちろん、医師の役割として診断・治療方針の決定などの「機能的な部分」だけではなく、患者の安心感など「情緒的な部分」の価値もある。
患者が医療に求めることを要素として分解しデジタルを半ば強引に入れることで、患者が求めているものが失われてしまってはいけないことや、今だけではなく今後の変化も見据えた政策決定をしてほしいと申し上げた。

図 医療DXとは(厚生労働省資料より)

デジタルヘルス時代と診療所がうまくつき合うには

そんな話をさせていただいた一方、私自身は銀座で診療所を経営しているため診療所経営にも目を戻すと、これからの方向性はわかるものの、どれだけ自院で対応すればいいか悩んでしまうという開業医の方々の気持ちもわかる。
もちろん、23年4月からのオンライン資格確認の義務化のように、有無を言わさず導入しないといけないものもあるが、デジタルサービスのコスパや運用は入れてみないとわからない面もある。当院の経営では積極的にデジタルサービスを取り入れているが、新しくデジタルサービスを導入する院内の動き方も考え直す必要がある。
そのため、時代の転換点に際し診療所の態度として私がすすめるのは、「デジタルサービスを導入はしなくても、世の中の動きは理解する」ことだ。今後、デジタルが社会の主流になり大きな変革が起きるときに、これらの情報をまったく知らないと、大変化への対応が全然できない。アンテナを張り、テクノロジーや医療DXの動向の情報を入れていくことが大切だと思っている。

正直な話、診療所は「今来てくれている患者さん」が受診し続けてくれさえすれば、収益としては安定する。しかし、世の中が変わって「今来てくれている患者さん」が来なくなったらどうだろうか。そのためこれは、その方々が来なくなったり、変わってしまったりしないように、世の中の動きやテクノロジーがどのように変わっているのかの情報を入れ続けるということになる。
本連載ではこれからも、そうした情報をいち早く共有して、これからの診療所経営のお役に立てればと思う。6年目も引き続きよろしくお願いします。(『CLINIC ばんぶう』2023年1月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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