DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
第52回
医療施設調査から読み解く
診療所の状況①

今回から、以前に分析した「医師調査」からは読み取れない診療所の状況や動向について、「医療施設調査」のデータをもとに分析していく。今回は、診療所数の推移や開設・廃止状況を全国・都道府県別に比較していく。

以前、本連載では厚生労働省が2年ごとに実施する「医師調査」の公表データを読み解いた。しかし、医師調査では診療所に従事する医師の状況を把握できるが、診療所の開設・廃止状況、夜間・土日の診療状況、在宅医療の実施、CT・MRI等の医療機器の配置状況などは、把握できない。
こうした情報を読み解けるのが、「医療施設調査」だ。厚労省では動態調査を毎年、静態調査を3年ごとに行っている。後者は前者と比べて項目が充実している。関心がある方は、e-Stat(政府統計の総合窓口)で検索してみてほしい。
今回は、診療所数の推移や開設・廃止状況を見ていこう。

診療所数は微増傾向
開業・廃止は活発化


図1は、2001年から21年まで5年ごとの診療所数の推移だ。同様に図2は、開設・廃止状況の推移を取りまとめている。
診療所数は、01年の9万4000から21年の10万4000と微増傾向。増加率では01~06年にかけて5%と明確だったが、その後は鈍化している。04年の卒後臨床研修制度必修化を契機に、大学医局が関連病院から医師を引き上げる動きが強まったのがこのころだ。それに伴い、「医療崩壊」という言葉が流行し、勤務医の開業が一時的に増えた。
一方、開設・廃止状況は11年以降ともに増加傾向にある。直近の21年は、開設1万件、廃止8000件となっている。
理由はわからないため詳細な背景は不明だが、データ上では診療所開業が活発化しているが、競争による淘汰も多いと推察される。

次に、表から診療所数の推移や開設廃止状況を都道府県別に見ていく。診療所数は東京都、大阪府、神奈川県の順で多く、鳥取県、高知県、福井県の順に少なかった。当然だが、診療所数の多い場所は、比較的人口が密集している。
人口10万人当たりでは、和歌山県が112カ所と最も多く、次いで島根県、長崎県が多く、埼玉県、千葉県、沖縄県の順に少なかった。最も多い県と少ない県とで1.8倍の差異が生じている。

増加率では、1年から11年までの全国平均は5.9%。沖縄県が最も高く、青森県が最も少なく、27%の差異があった。続いて、11年から21年までに関しては、全国平均は4.8%、東京都が最も多く、高知県が最も少ない。その差異は22%だった。
人口当たりの診療所数が少ない都道府県で増加率が高く、多い都道府県では低い傾向と、需要供給のバランスを取ろうとする力が働いているように見えるが、東京都のように人口当たりの診療所数がすでに多いにもかかわらず増加率が高いエリアも散見される。

21年の全診療所数に占める開設数の割合は全国平均9.2%、奈良県が最も多く、徳島県が最も少なかった。割合の最も高い県と少ない県とで、41%の差異が生じている。
他方、廃止数の割合は全国で7.3%、奈良県が最も多く、石川県が最も少なかった。その差異は40%である。開設数と廃止数の割合が最も高い県が一致しているが、診療所数の約半数が開設・廃止されているというのは現実的ではなく、統計値に何かしらの問題が生じている可能性が高い。

*

以上、本稿では医療施設調査の結果から、診療所数の推移や都道府県別の傾向を確認した。人口当たりの診療所数が少ない都道府県は、新規参入余地が大きいという考え方もできるかもしれない。他方、開設や廃止の地域差が大きい理由は入手でき
るデータだけでは説明が困難であった。次回は、夜間・土日の診療状況を見ていく。(『CLINIC ばんぶう』2023年1月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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