DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
新型コロナ感染拡大の外来への影響をデータから読み解く
―2022年5月月次報告を踏まえ―

新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、医療経営にさまざまな影響を与えている。外来の売上・患者数は2020年5月の緊急事態宣言発令後の落ち込みと比較して回復傾向と指摘される一方、地域や診療科によって異なるとの意見もある。今回は、19年、20年、22年の5月のデータを比べ、コロナ禍前後の外来における受診抑制の状況などを読み解いていく。

外来の売上はコロナ禍前以上に回復

社会保険診療報酬支払基金の月次報告データから、緊急事態宣言下で最も外来の売上・患者数が落ち込んだ2020年5月と、19年および22年の同月を比較した。図1は売上、図2は患者数(正確にはレセプト件数)を指標に、19年を100%とした場合の全国・都道府県の増減を示している。

まず売上は、全国レベルで20年に83%に減少したが、22年は112%と、19年のコロナ禍前を上回る水準に回復している。患者数も、20年は74%と減少したのに対し、22年は105%と19年をやや上回っている。
患者数よりも売上の回復が大きいということは、単価が上がったということだ。
その背景には、新型コロナ関連の加算が影響していると考えられる。22年5月は緊急事態宣言が発令していなかったこともあり、受診抑制は起きず、疑い患者が多かったことも影響して外来の売上が回復したと推測される。
ところで、図1、図2のデータは病院と診療所の合計である点に注意が必要だ。また、「社会保険診療報酬支払基金」のデータには後期高齢者が含まれていないなど、データ上の限界も留意されたい。

一方、都道府県別では、22年5月の売上は鳥取県(99%)以外の都道府県で100%を上回っていた。同様に、患者数は富山県、鳥取県が100%をやや下回っていたが、それ以外は上回っている。
都道府県レベルで見ても、外来の売上・患者数はコロナ禍前並みまで回復している地域がほとんどであることがわかる。

回復遅れ気味だった小児科が好調も、耳鼻咽喉科は伸びず

図3は売上、図4は患者数について、1年を100%として病院・診療所の比較、診療科別の増減を示したものだ。
病院と診療所の比較では大きな差は見られないが、22年は病院の売上が109%に対して診療所は113%。患者数は病院が96%で診療所が100%と、診療所のほうが、回復幅が大きい。
診療科の比較では、20年に売上と患者数が40%以上も激減した小児科と耳鼻咽喉科で、やや明暗が分かれた。
22年を見ると、売上は小児科が132%で耳鼻咽喉科が98%、患者数は小児科が98%に対して耳鼻咽喉科が86%と、小児科が、特に売上において他科と比較しても好調な一方、耳鼻咽喉科の回復が伸び悩んでいる。
小児科診療に対する新型コロナ加算の充実や、新型コロナの感染自体が小児にも広がってきたことなどが、要因として考えられる。

ウイズコロナ時代の新たな外来トレンドを見据えて

20年5月の大幅な受診抑制は、外出自粛要請を受けた不要不急の受診控えやセルフメディケーションの促進、十分な感染予防で急性疾患になりにくかったなど、複合的な要因で起きたと考えられたが、一時的なものと思われる。日本ではオンライン診療が劇的に増えた事実もないため、以前の受療行動に戻っている可能性が高い。
今般の影響は、医療経営者が今後の方向性について改めて考えるきっかけになったのではないだろうか。受診抑制フェーズから回復したとしても、大きなトレンドとしては人口動態への変化や診療チャネルの多様化による外来患者数の減少傾向は止められない。

オンライン診療の恒久化も決まり、漫然と現状の経営を続けていては患者に提供する価値は陳腐化し、淘汰されてしまう。これから猛威を振るうだろう第8波が収束すれば、診療現場は落ち着きを取り戻すだろう。
ウイズコロナ時代の外来診療に着手するタイミングだと、心得たい。(『CLINIC ばんぶう』2022年12月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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