デジタルヘルスの今と可能性
第60回
今のデジタル医療の変化は
より大きな変化の過渡期だ

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、この5年間で目まぐるしく変化していく医療のデジタル活用に着目し、次世代のより大きな医療提供体制の構造変化について考察する。

現在の医療はどのような変化の途中なのか

2018年1月から開始した本連載も、ちょうど今回で丸5年となった。
その5年間で、日本の医療提供体制は大きく変化しつつある。オンライン診療は実質、どのような疾患に対しても初診・再診のいずれでも行えるようになり、治療用アプリやAI医療機器のなかには保険収載されるものも現れ、日本中どこでも活用することができるようになったのが、現在だ。
5年前からすれば、これだけでも大きな変化だが、私としては、この変化はまだ、さらに大きな変化の途中であると考えている。第4次産業革命という言葉が使われ始め、多くの人が知るものとなっているが、改めてこのフェーズではどのような変化が起こるのだろうか。

第4次産業革命のテクノロジーと言われるのが、AI、IoT、ビッグデータ、ロボティクスだ。わかりやすく要約すると、第4次産業革命におけるキモとなるのは、「データ×AI」だ。従来はデータが取れていなかったものもデータが取れるようになり、それをAIで分析・実行したりできるようになったことが、大きな変革であるのだ。
「AIで学習したロボットアームが、ベルトコンベアで流れてくる部品を鑑別する」というように、人間が行っていた仕事をデータ×AIによる学習に基づいて口ボットが実行できるようになる。つまり、データが収集できるような「決められた作業」は、人間でなくてもいいということ。
こうした話になると、AIに人間の仕事が奪われると叫ばれるが、本質的に何が行われているかというと、仕事(作業)の“自動化”である。データが取れれば、人間が行うことなく「自動的に」作業が行われるようになる。その結果として、作業に人間の手が必要なくなってしまう。

“自動化”の先にある次世代の医療提供とは

この流れを医療に置き換えて考えると、業務フローで「決まった作業」になっているところは、この第4次産業革命の大きな時代の流れとともに「自動化」されていくだろう。たとえば、ルーティンとなっている経過観察目的の外来は、患者さんに対してチェックし対応することが決まっている場合には、自動化されていくと思われる。
もちろん、医師法で医師の診察が定められている以上、一足飛びに医師の診察がいらない世界になることはないが、早くて2035年、遅くとも2050年には医療提供に関しても「自動化」が行われるようになっているのではないか。その際に生き残っているのは、究極的にはどの業界においても、自動化を担うロボット・AIを多数抱えている人(会社・医療機関)か、そうしたロボットやAIを創る人(会社・医療機関)だけだと考えている。
とはいえ、先述のとおり、これらの変化が完了するのは、まだ10年以上先の話であるとは思う。

オンライン診療は対面診療の代替ではなくなった

それでは、このように世の中物事の多くが自動化されてい大きな変化の波において、冒頭で挙げた現在のデジタル医療の変化は、どのように捉えることができるのだろうか。
まず、オンライン診療は、対面診療がWEBを介してオンラインで可能になったものと考えがちだが、そうした対面診療の延長線上にある変化として捉えたままでは、本質を見失うと思っている。
オンライン診療の本質は、「医師と患者(生活者)がオンラインで直接つながることができるようになった」ことにある。
今までは、医療機関へ直接行かなければつながれなかった医師と、スマートフォン越しにつながれるようになった。これは言い換えると、スマホを介して医療にアクセスできるようになったわけだ。
そして、現在はスマホを介してつながった「医師」という人間によって医療が提供されている形だ。今さら言うまでもないが、画像診断の領域では特定の疾患についてはすでに、医師よりもAIの診断精度のほうが高いという研究発表は数多く報告されている。
実際にAI医療機器が現場で用いられるようになり、現状は「医師の見逃しを防止する」ダブルチェックの意味合いで使われることが多かったが、第2世代として「医師がわからないものも診断できる」AI医療機器も登場してきた。
今はまだ医師による判断が主だが、おそらく時代とともにAIが判断したものを医師が最終決定(診断)するという体制も増えていくだろう。その先には、結局AIの判断と医師の最終決定が一緒で、医師のほうは形骸化するといった状況も考えられる。

閑話休題。話をオンライン診療に戻すと、オンラインで患者(生活者)が医療と直接つながることができるようになった現在だが、その「医療」の提供者が人間からAIになり得るのだ。人間は仕事をし過ぎると疲れてしまうが、AIは疲れ知らずである。患者(生活者)とつながる先がAIとなったとき、「医療の自動化」は完成へと近づいていく。

今のデジタルヘルスを活用した医療・ヘルスケアの変化は、第4次産業革命の本質であるデータ×AIによる「自動化」の観点から考えると、大きな変化の流れにおけるほんの一瞬を垣間見ているにすぎない。オンライン診療は対面診療の代替ではなくなり、AI医療機器も従来の医療機器とはまったく違う立ち位置となる。
まだ少なくとも10年は医師として現場で奮闘しようという先生方は、どうかこれらの変化を毛嫌いせず、活用できる場面に出会ったら積極的に取り入れて、未来の変化の過渡期であることを実感していただければと思う。(『CLINIC ばんぶう』2022年12月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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