デジタルヘルスの今と可能性
第59回
医療DX推進本部がいよいよ始動
主要な施策の方向性とは?

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、10月よりいよいよ立ち上がった「医療DX推進本部」にフォーカスしていく。

現役総理自ら医療DXの推進に向けた意欲を公言

今年6月の「骨太の方針2022」で盛り込まれていた、岸田文雄総理大臣を本部長とする「医療DX推進本部」が、10月12日にいよいよ始まった。
ここでは、▽全国医療情報プラットフォームの創設、▽電子力ルテ情報の標準化等、▽診療報酬改定DX――の3つが、推進すべき施策として掲げられている。なお、岸田総理がこの会議での議論後に話したコメントがあるので、共有しておきたい(表)。

現役の総理大臣が、自ら医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)によって医療提供の効率化や質の向上をしていくと言っているのである。

表 岸田文雄総理のコメントより抜粋

医療DXについては、医療分野でのデジタルトランスフォーメーションを通じたサービスの効率化や質の向上により、国民の保健医療の向上を図るなど、我が国の医療の将来を大きく切り拓いていくものであり、政府としても、今年の骨太の方針に盛り込み、その実現に全力を挙げていく考えです。
その際には、医療界や産業界とも一丸となって取り組んでいく必要があり、政府においても、縦割りを排し、省庁横断的に取組を推進する体制を整備する必要があります。
こうした観点から、本日、私を本部長とする医療DX推進本部を立ち上げることとしました。今後この場で、先ほど厚生労働大臣から説明のあった、全国医療情報プラットフォームの創設や電子カルテの標準化などの施策を中心に、スピード感をもって取り組むための工程表を策定すべく議論いただきたいと思います。
併せて、オンライン被保険者資格確認の用途拡大など、今すぐ取りかかれるものについては、今度の経済対策に盛り込んでください。
関係大臣におかれましては、医療DXの実現に向けて緊密に連携しながら、積極的に取り組むようお願いいたします。

オンライン資格確認のシステム普及が基盤のカギ

まず、「全国医療情報プラットフォームの創設」に関しては、現在、来年4月からの「義務化」が進められている、オンライン資格確認システムのネットワークを拡充することで、医療と介護の全般にわたる情報の共有をできるよう考えられている。
現状としては、まだまだオンライン資格確認を導入している医療機関や薬局は少ないのだが、このネットワークは、ここから始まる医療DXの基盤となるものなので、基本の基とも言うべき重要な施策だ。電子カルテが導入されてない医療機関であっても、レセプト請求を電子で行っているところは、もれなく義務化の対象となる。
私も今では診療所の共同経営者であるため、個人的には、もちろん導入して受付のフローなどが変わるのはとても大変なのだが、これくらいのある意味では強制力がないと、日本の医療DXは進まないとも思うので、致し方ない。

電子カルテは標準型の創設
安価な提供も視野に

「電子カルテ情報の標準化」に関しては、まずは形式の統一化が目指されている。そして、「骨太の方針2022」でも書かれていたのだが、標準型電子カルテの創設も検討されている。

とある別の会議では、電子カルテの維持が医療機関の経営コスト上も高額なため、導入しづらい医療機関に関しては、無料または安価で標準型電子カルテを提供できるようにする仕組みも考慮に入れていると聞いた。政府として、電子カルテの導入率を上げていくことは、医療側のデータを集積していくためには至上命題なのである。そして、集積された電子カルテデータは、治療最適化に活用されたり、AIなどの新しい医療技術の開発や創薬につなげていく仕組みを検討されている。

診療報酬改定DXの詳細はまだ見えていない

最後に「診療報酬改定DX」であるが、これはデジタル技術を活用することによって、現在は2年に1回行われている診療報酬改定の作業などを大幅に効率化することが考えられている。
デジタル化が進むことで、医療保険制度の運営コストの削減につながるとも考えられているのだが、具体的に医療機関にはどのように資するのかについては、現状ではまだわかっていない。
また、「診療報酬改定DX」に対応する診療報酬改定が、2024年なのか、26年なのか、それともそれらの間に新たな診療報酬改定を設定するのかなども、まだわかっていない。今後の情報を注視したいところだ。

*

これら3つの「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子力ルテ情報の標準化等」「診療報酬改定DX」に関しては、具体的な施策とともに実現するための工程表が、来年の春までに出されることが決定された。
行政の偉い人たちで構成する幹事会というものが設置され、具体的な論点や工程表の骨子案がまず出されていくらしい。
この工程表は、これからの日本の医療におけるデジタル変革の道しるべとなるはずなので、本連載でも今後、一番に注目をしていきたいと思っている。いよいよ、本格的に日本の医療DXが進んでいく!(『CLINIC ばんぶう』2022年11月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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