DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
都道府県別の薬剤師数の現状
―2020年全国調査から―

前回まで、診療所の医師数、歯科医師数について取り上げ、開業志向の低下、グループプラクティスの推進、医師の高齢化等の状況について、実際のデータを用いて紹介した。今回は同じデータを用いて、薬の動向について分析していく。

薬局開業志向は低下も薬局薬剤師は2.2倍に

図は、全国の薬剤師がどこで従事しているかについて、2000年から20年までの20年間における10年ごとの薬剤師をグラフ化したものだ。
過去20年間で、薬剤師数は21万7000人から32万2000人と48%増加。このうち、薬局勤務は9万5000人から18万9000人に増加し、薬剤師増加をほぼ薬局が吸収している。
過去10年では、医療機関勤務が28%増加した一方で、企業等に勤する薬剤師は13%減少。また、その他薬剤師が23%増加しており、薬剤師のキャリアパスの多様化が推測される。

薬局薬剤師の内訳を見ると、開設者は2万1000人から1万4000人と、むしろ減少している。つまり、開業志向は低下傾向にあって、薬局の統合再編が進んだことがうかがえる。他方、薬局勤務は倍増していることから、法人当たりの薬剤師数が増加し、大規模化が進んでいることがわかる。
この背景には、医薬分業が進むなか、薬局事業は株式会社が参入可能なため、巨大な資本を背景に「門前薬局」をチェーン展開する調剤薬局が業界再編をリードし、大規模化を進めたこと、競争の激化により、開業による経営的リスクをとりたくな薬剤師が増えたこと、時短勤務といった薬剤師の働き方の多様化により、薬剤師1人体制では事業継続が難しくなっていることなどが考えられる。

人口10万人当たり薬剤師数の地域差は約2倍

表は、薬剤師数の都道府県比較だ。人口10万人当たり薬剤師数は、東京都、徳島県、大阪府の順に多く、沖縄県、青森県、福井県の順に少なかった。地域の格差を見ると、最も多い県と少ない県で2.3倍の差異が生じている。
10年から20年にかけての増加率を見ると、群馬県、山梨県、島根県などで、20%以上の増加率となっている。大都市や地方都市では、薬剤師数が増加傾向にあるものの、増加率は鈍化している。
過疎地域では、薬剤師数の減少が始まっている。このことから、薬剤師数についても地域偏在が拡大している可能性がある。薬剤師の地域偏在の状況をみると、薬剤師の少ない地域への移住によって、給与増額が期待できる部分があるのかもしれない。

薬剤師の高齢化も課題だ。薬剤師の高齢化率(65歳以上の割合)は全国で11%となっており、65歳以上の割合は高知県、和歌山県、沖縄県の順に多く、高知県では21%に達している。一方、東京都、大阪府、埼玉県の順に低く、一番低い東京都で8%であった。地域によっては薬剤師の高齢化がかなり進んでおり、薬局の事業承継が難しい場合、薬局の減少が進むとみられ、地域医療への影響を留意する必要がある。

他方、コロナ禍を契機にオンライン薬剤指導が普及しつつある。今後は、アマゾンのような企業が、薬剤指導から配送までをワンストップで提供するようになるだろう。そうした動きは、薬局の地域偏在の解消に資するかもしれない。
実は、日本の薬剤師数は先進国でも人口比で多い水準にある。これは、医師や看護師と対照的だ。そのため、医師からのタスクシフトを含め、薬剤師業務の幅に拡大の余地を有しているといえる。

また、医師と同様に、薬剤師の偏在対策に関する議論を行政主導で進めていくことも考えられる。他方で、サービスをワンストップで行う観点から、あえて薬剤の処方も院内で行う診療所が増加している。今後、オンライン診療が普及すると、その傾向はますます強くなる可能性もある。
この機会に、医歯薬連携に向けたさまざまな事業展開の可能性を考えてみてはいかがだろうか。(『CLINIC ばんぶう』2022年11月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング