DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
診療所医師数の現状④
―2020年医師調査から―

新型コロナウイルス感染の拡大を受けて、外来患者数は減少しており、診療所の閉鎖や売却の話をぽつぽつ聞くようになった。このような環境下、診療所医師数が近時どのような移るのを見ていくことは、今後の事業展開を考えるうえで役に立つこともあるだろう。本稿では、前回までに引き続き、診療科別の診療所医師の状況を見ていく。

診療科別の専門医取得状況

厚生労働省は2年に1回、医師歯科医師・薬剤統計を行っている。前回は2020年末に行われ、その集計結果が最近公開された。
図は、全国の診療所医師の診療科別の専門医取得状況をまとめたものだ。比較的医師数の多い診療科と対応する専門医を抽出し、内科系については総合内科専門医、外科系については外科専門医の取得状況をとりまとめた。
内科系の専門医取得率は、20%と低かった。その他の診療科はおおむね80%を超えており、特に、産婦人科は92%と最も高かった。一方、内科以外では皮膚科が66%と比較的低い傾向にあった。
内科系については消化器内科、呼吸器内科、循環器内科――といった専門領域別にみると、専門医取得割合は高いものと思われる。さらに、認定内科医の取得割合は、総合内科専門医に比べると高いものと思われる。
なお、診療所に勤務する医師の多くが、専門医であることが確認された。専門医資格の更新は難しくなりつつあり、特に診療所ではなかなか経験を積むのが難しい要件がある専門医については、資格の維持が難しくなることが想定される。
他方で、海外の家庭医制度のように、総合診療能力やかかりつけ医機能を担保する新しい資格のあり方についても、検討していく必要があるだろう。

産婦人科、精神科、外科系の診療所医師数の都道府県比較

次に、各診療科別の診療所医師数について、前回に引き続き都道府県別の状況を見ていく。今回は、残りの診療科である産婦人科、精神科、外科系だ。
表は、産婦人科、精神科、外科系にかかわる診療所医師数の都道府県比較である。

まず、産婦人科の人口10万人当たりの診療所医師数は、東京都、和歌山県、長崎県の順に多く、新潟県、島根県、北海道の順に少なかった。この人口10万人当たりの診療所医師数が最も多い県と少ない県では、2.4倍の差異が生じている。
なお、産婦人科といっても実際は婦人科診療のみで、分娩は取り扱っていない診療所も多い。分娩にとって欠かせない医療機能だが、高齢化等の理由で分娩を取りやめる診療所も増えている。残念ながら本稿では、入手データ上の制約から、このような詳細の分析はできていない。

精神科の人口10万人当たりの診療所医師数は、東京都、京都府、神奈川県の順に多く、青森県、岩手県、栃木県の順に少なかった。最も多い県と少ない県では、4.3倍の差異があった。

最後に、外科系の人口10万人当たりの診療所医師数は、長崎県、福岡県、愛媛県の順に多く、奈良県、新潟県、神奈川県の順に少なかった。こちらは、最も多い県と少ない県とで8.4倍もの差異が生じていた。

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以上、診療所における診療科ごとの勤務医の状況について、実際のデータを用いて紹介した。診療科によって増減のトレンドや地域差の特徴は異なっていた。
日本では、病院でも外来診療が行われているため、病院の医師数も確認する必要はあるものの、医師数が少ない地域では、一定の新規参入の余地があると言えるのかもしれない。

次回は、歯科医師の状況について分析していく。(『CLINIC ばんぶう』2022年9月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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