デジタルヘルスの今と可能性
第56回
オンライン診療を受けられる
場所の拡大が期待される

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。前回に引き続き国のデジタルヘルスの動向から、今回はオンライン診療に焦点を合わせて解説していく。

オンライン診療を受けられる場所に関する定義

前回は、6月7日に閣議決定された政府の向こう1年の方針である、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」と「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」について、デジタルへルスの視点からお話しした。
特に、総理大臣を本部長とする「医療DX推進本部(仮称)」とともに、オンライン診療の活用やAIホスピタルの推進も挙げられている。そこで、今回はオンライン診療領域で5年来の話題である、「患者さんがオンライン診療を受けることのできる場所」について、議論を整理していこう(図)。

患者さんがオンライン診療を受ける場所は、医療法で制限されている。正確には、「常に」医療を受ける場所が制限されている。というのも、たとえば、道で倒れて応急処置をする場合は、緊急事態として医療を提供するわけであるため、「常に」には入らない。
「常に」医療を受ける場所というのは、毎回その場で診療を受ける、多くの人がその場で診療を受ける場所と思ってもらえればいいだろう。それが、医療法1条の2の2で規定されているわけだ。
具体的には、「病院、診療所、介護老人保健施設、調剤薬局、医療を受ける者の居宅等(居宅その他厚生労働省令で定める場所をいう)」とされている。厚生労働省では、居宅「等」の解釈について、「養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、医療を受ける者が療養生活を営むことができる場所」が該当すると記載している。
つまり記載がある場所、たとえば、特別養護老人ホームでは患者さんが常にオンライン診療を含む医療を受けることができる。しかし、前述の記載に明示されていな場所はいいとはされていない。オンライン診療は徐々に広がっているものの、高齢患者さんの場合、デジタルデバイスを本人がうまく使えないといった課題はいまだ残っている。そのため、家族や、医療従事者が訪問しオンライン診療を受けるサポートを行ったりしているわけだ。

また、別のアプローチとして、ケーブルテレビ会社とオンライン診療の提供会社が連携し、テレビでオンライン診療を受けられるといった試みも行われている。こうしたなか、私は5年前の2017年10月10日の規制改革推進会議に登壇する機会をいただき、次のようなことを訴えかけた。

①会社でオンライン診療を受けられるようにする

②公民館など身近な場所でオンライン診療を受けられるようにする

①は、会社がオンライン診療を受けることができる場所として明示されていなかったため。②は、高齢患者が1人でデバイス操作が難しく、近くにサポートできる人もいない場合、公民館や通所介護など身近な場所へ行く際にそこに医療従事者がいれば、オンライン診療を受けるサポートをしてもらえるためだ。
これに対し、当時の厚労省の回答は、「①の会社は、『家と同じように多くの時間を過ごすところ』なのでOK(居宅等に含まれる)。②の公民館などは、不特定多数が出入りするところであり、医療法で明記された居宅等の『等』には含まれないため不可」だった。

通所介護事業所や公民館で
受けられる可能性が拡大

よって、高齢患者が居宅以外で誰かのサポートを受けながらのオンライン診療ができないとなったまま、5年が経過していた。
しかし、22年5月27の規制改革推進会議の答申「規制改革推進に関する答申~コロナ後に向けた成長の『起動』~」にて、オンライン診療を受ける場所に関して、次のような記述があった。

このように、実施事項の「ア:オンライン診療・服薬指導の更なる推進」(表)のfにて、「通所介護事業所や公民館等の身近な場所」にてオンライン診療の受診を可能とする必要性が取り上げられている。そして、22年度末をめどに、オンライン診療を常に受ける場所として、OKかの結論が出るのではないかと予想する。
そうなると、従来からもデイケアやショートステイの際に、医療法に記載のある場所であれば併せてオンライン診療を行えたように、デイサービスのために通所介護事業所に行ったときにも、オンライン診療を受けることができるようになるというわけだ。
こうした動きは、個人的にも前述のとおり5年前から規制改革を訴えかけてきた、「オンライン診療を受けることができる場所」の拡大として悲願であるが、それ以上に医介連携やデジタルの推進としても大きな変化につながるのではないかと考え、とても期待をしている。(『CLINIC ばんぶう』2022年8月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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