デジタルヘルスの今と可能性
第55回
国策におけるデジタルヘルス
推進の方向性とは

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、「骨太の方針2022」におけるデジタルヘルス領域の項目について解説していく。

医療DX推進のための専門本部が新設

毎年6月は、日本における向こう1年間の政策の方針が発表される時期だ。今年も6月7日の経済財政諮問会議で、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~ 人・技術・スタートアップへの投資の実現~」および「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」が閣議決定された。
今回は、この2つのなかでデジタルヘルス領域に言及している内容について、解説していこう。

まず、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」は、岸田内閣のキーワードにもなっている「新しい資本主義」に関して、内閣官房で開かれている「新しい資本主義実現会議」や自民党など与党で行われていた検討をまとめたものだ。
ここでは、基本的に「新しい資本主義」の背景や考え方といった概要に加えて、量子、AI、バイオテクノロジー・医療分野という重点投資分野、スタートアップの起業の加速と大企業のオープンイノベーションの推進、2050年カーボンニュートラルに向けたGX(グリーン・トランスフォーメーション)とDX(デジタル・トランスフォーメーション)への投資などについて書かれている。

医療領域として特に注目しておきたいのは、「IV・社会的課題を解決する経済社会システムの構築」の⑦医療のDXだ。
「全国医療情報プラットフォームの創設、電子カルテ情報の標準化等及び診療報酬改定に関するDXの取組を行政と関係業界が一丸となって進めるとともに、医療情報の利活用について法制上の措置等を講ずる。そのため、政府に総理を本部長とし関係閣僚により構成される『医療DX推進本部(仮称)』を設置する」と書かれている。
具体的には、まず政府として医療DXするべく、「医療DX推進本部(仮称)」という部署を創設すること。そして何より、私が一番注目したのは、その本部長を総理自ら担当するという点だ。

政府の会議体として総理が本部長に就任するものは、要は一番格が高い。たとえば、総理が議長・本部長を務めた会議体としては、「骨太の方針」を発表する経済財政諮問会議、安倍内閣時代の未来投資会議、岸田内閣の新しい資本主義実現会議、また、日本の医療の5カ年計画である「健康・医療戦略」を発表する健康医療戦略推進本部――などがある。
これらと並んで、このたび「医療DX推進本部(仮称)」が立ち上がるというわけだ。今までもデジタル庁の創設など、国としてのデジタル化推進の流れにともない、医療のデジタル化推進も求められていたが、いよいよ今までの政策のなかでも一番の大上段から、医療DXを進める体制が整ったと言える。さすがにこの体制では、やや強制的にでも医療DXが進んでいくと思われる。

オンライン診療・資格確認の利用促進策に言及

次に、「骨太の方針2022」だが、こちらではより詳細に、医療・介護領域でのDX推進の方向性について書かれている。
医療・介護費の適正化とサービスの効率化・質の向上を目的として、デジタルヘルスサービスの認証制度・評価指針の構築による質の見える化などの推進、さらに、データヘルス改革の工程表に引き続き則ったPHR推進の実行。オンライン資格確認については、23年4月から保険医療機関・薬局での導入を原則として義務づけ、24年度中をめどに保険者による保険証発行の選択制導入、保険証の原則廃止を目指す旨が書かれている。
これにより、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むように、支援の見直しも行っていくようだ。また、「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化等」「診療報酬改定DX」も進めていくとのこと。

最後、「医療DXの推進を図るため、オンライン診療の活用を促進するとともに、AIホスピタルの推進及び実装に向け取り組む」ということも書かれており、オンライン診療の活用に関しては必ず促進で進めるようだし、19年度から22年度まで行われている、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第2期でのAIホスピタルの成果は、今後、医療機関のDXの推進の政策として活用されるということなので、要注目ということらしい。

*

以上、今回は2つの国の大きな政策における、デジタルヘルス領域の方向性について説明したが、これからオンライン診療や、AIをはじめとした医療DXが医療機関でさらに推進されていくということが明らかにわかった発表だったと思う。
いよいよ医療機関も大きくDXする1年になりそうだ。(『CLINIC ばんぶう』2022年7月号)

図 経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室・デジタルハリウッド大学大学院客員教授/東京医科歯科大臨床教授/THIRD CLINIC GINZA共同経営者)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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