DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
診療所医師数の現状①
―2020年医師調査から―
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、外来患者数は減少しており、診療所の閉鎖や売却の話をぽつぽつ聞くようになった。このような環境下、診療所医師数が近時どのように推移しているのかを見ていくことは、今後の診療所の事業展開を考えるうえで役に立つこともあるだろう。本稿では、実際のデータを紹介しながら検討する。
開業志向は低下 診療所勤務医は倍増
厚生労働省は2年に1回、医師・歯科医師・薬剤師統計を行っている。前回は2020年の末に行われ、最近、その集計結果が公開された。
図は、全国の医師がどこで従業しているかについて、病院、診療所(開設者または勤務医)、その他という区分で、00年から20年までの20年間における10年ごとの医師数をグラフにしたものである。過去20年間で医師数は25万6000人から34万人になり、約33%増加した。他方で、診療所医師数は8万9000人から10万7000人になり、約21%増加した。
診療所医師数の内訳をみると、開設者は6万9000人から7万3000人と、約5%の増加にとどまっている。特に10年と20年を比較すると、ほぼ横ばいとなっており、医師開業志向は低下傾向にあることが数字からもうかがえる。他方で、診療所の勤務医(開設者でない)は1万9000人から3万5000人と、倍増した。日本では従来、1人開業医が多かったが、近年は医師を確保しやすい都市部を中心に、グループプラクティス化が進んでいる。
この背景には、外来患者数の緩やかな減少に伴う診療所間の競争の激化によって、開業による経営リスクをとりたくない医師が増えたこと、365日24時間の診療体制が求められる在宅医療の普及、時短勤務といった、医師の働き方の多様化にともない、医師1人体制では診療継続が難しくなっていることなどが考えられる。
10万人当たり医師数地域差は約2倍
表は、診療所医師数の都道府県比較である。人口10万人あたりの医師数は、東京都、和歌山県、京都府の順に多く、茨城県、新潟県、千葉県の順に少なかった。医師数の少ない県では、医師数の増加率は比較的高いものの、人口10万人あたりの医師数が最も多い県と少ない県とでは、依然として約2倍の差異が生じている。
大都市や地方都市では、診療所医師数が増加傾向にあるものの、増加率は鈍化している。また、過疎地域では既に診療所医師数の減少が始まっている。このことから、診療所医師についても、地域偏在が拡大している可能性がある。
表 診療所医師数に関する都道府県比較
診療所医師の平均年齢は60歳
診療所医師の高齢化も課題だ。医師の高齢化率(65歳以上の割合)は全国で30%、75歳以上の割合は9%となっている。65歳以上の割合は徳島県、和歌山県、長崎県の順に高く、徳島県は49%に達していた。一方、埼玉県、千葉県、北海道の順に低く、埼玉県で21%であった。
この背景には、若手医師の開業減少と高齢医師の診療継年代の診療所医師が増加しているか続という2つの原因がある。特に20歳代から40歳代の診療所開設者は過去20年で半減している影響は大きい。では、どのというと、現在60歳代の医師である。現在60歳代の医師は新設医大開設の影響で医学部定員が増加した世代であり、この世代が10年前後に開業ラッシュを迎えたことで、現在の状況が起こっている。このまま若手医師の開業志向の低下が続いた場合、診療所の減少は避けられないだろう。
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本稿では、診療所における開業志向の減少、グループプラクティスの増加、医師の高齢化等の状況について、実際のデータを用いて紹介した。日本の外来診療は、診療所だけでなく病院でも行われており、診療所の廃止・減少が必ずしも地域における外来医療へのアクセス悪化に直接つながるものではないが、今後の外来医療に与える影響は大きい。
次回は、診療所医師の診療科別の状況を見ていく。(『CLINIC ばんぶう』2022年6月号)
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務