DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
介護サービスの供給状況の地域差④
―2020年全国調査から―
超高齢化社会を迎える今、診療所にとって、介護との連携はますます重要になっている。特に、在宅医療に参入していたり、介護サービスを提供していたりする診療所にとっては、地域の介護サービスの供給状況を把握しておくことは必須だろう。今回は、特定施設およびサービス付き高齢者向け住宅を中心に、介護サービスの供給状況の地域差を取り上げる。
介護保険サービスの体系は複雑で、網羅的に記述することは容易ではない。本稿は、住み慣れた家でない場所で介護保険サービスを受けられる環境として、介護保険施設、特定施設、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の3つが主要な類型であるとみなし、トレンドや地域についてみていきたい。なお、サ高住は特定施設の一部だが、説明を簡略化するため、分けて記載する。
この3類型について、要介護度、費用、サービスの観点からざっくり整理したのが表1だ。これはあくまで一般論であり、サ高住であっても要介護度の高い人を受け入れているところも多く存在する。「内包」や「外付け」としているのは、「内包」は、内部でサービスが受けられるということで、「外付け」は、訪問診療や訪問介護といった外部事業者からのサービスを受けるという意味だ。
特定施設・サ高住は近年に急増
厚生労働省は毎年、介護サービス施設・事業所調査を実施しており、最新の結果として2020年10月時点のデータが公開されている。サ高住は、国土交通省の管轄ということもあり、サービス付き高齢者向け住宅情報提供システムに掲載されていた22年2月末時点のデータを用いた。
図は、3類型の事業所数の推移を示したものだ。事業所数は、介護保険制度の成立、高齢者・要介護者の増加を受け、過去20年間で急増している。サ高住は、高齢者住まい法の改正によって12年10月から登録が聞始された比較的新しい類型だ。20年の事業所数を見ると、介護保険施設が1万4000と最も多く、次いでサ高住の8000、特定施設の5000と続く。トレンドを見ると、介護保険施設は過去20年で25%の伸びにとどまっているのに対して、特定施設は18倍、サ高住は制度開設から8年で特定施設を上回る供給となっている。介護保険施設や特定施設は総量規制の対象となっているのに対し、サ高住は比較的自由に開設できることも、急増している要因だろう。
介護サービスの最大手は損保ジャパンのグループである等、居宅サービスは株式会社が運営できる事業が多いことから、上場企業を含めて、大企業が多く参入している領域であり、近年もM&Aが活発に行われている。定員数の地域差は、特定施設で約16.5倍、サ高住で約5.9倍と高い。
表2は、3類型の合計、介護保険施設、特定施設、サ高住の定員数に関する都道府県の比較である。
人口10万人当たり3類型の合計は、島根県、秋田県、鳥取県の順に多く、愛知県、沖縄県、滋賀県の順に少なかった。地域の格差を見ると、定員数が最も多い県と少ない県とで2.0倍の差異が生じているが、各類型の差異に比べると小さい。
介護保険施設は、秋田県、新潟県、島根県の順に多く、東京都、愛知県、沖縄県の順に少なかった。定員数が最も多い県と少ない県とで2.3倍の差異が生じている。
特定施設は、埼玉県、神奈川県、東京都の順に多く、徳島県、富山県、山梨県の順に少なかった。定員数が最も多い県と少ない県とで16.5倍という大きな差異が生じている。特定施設の多い上位3地域はいずれも首都圏で、土地価格の高さが費用に転嫁される点を含め、特定施設の入居費用が他の類型に比べて高い点が影響しているとみられる。
サ高住の供給は、北海道、鳥取県、三重県の順に多く、佐賀県、宮崎県、東京都の順に少なかった。最も多い県と少ない県とで5.9倍の差異が生じている。北海道が最多の理由として、自立者も入居できることから、雪かきへの対応などでニーズが高いことも影響していると考えられる。
地域ニーズに合わせた展開戦略が必要に
介護保険施設の定員数が少ない地域は、大都市圏の都道府県が多い。都市部は、入居者やその家族の所得・資産が大きいことや、不動産の価格と入居費用が釣り合わず、介護保険施設の代わりを、特定施設やサ高住が担っていることが推察される。今後、3大都市圏を中心に、後期高齢者の人口が増加することで、要介護者数が遅れて急増してくる可能性が高い。他方、既に高齢化が進み、要介護者数も減少に転じ、介護施設の廃止・縮小が求められる地域も出てくるだろう。地域ニーズの変化を見越した展開戦略が必要になる。
このような比較を行う場合、本来要介護者数を考慮する必要があるが、本稿ではできていない。いずれにせよ、供給の地域差はかなり大きいことが改めて確認された。
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以上、4回にわたって介護サービスの供給状況の地域差を取り上げた。地域包括ケアシステムの一員として、介護サービスへの参入を含めて、診療所の役割を改めて再考する機会になれば幸いだ。(『CLINIC ばんぶう』2022年5月号)
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務