DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
介護サービスの供給状況の地域差③居宅サービス
―2020年全国調査から―
超高齢化社会を迎える今、診療所にとって、介護との連携はますます重要になっている。特に、在宅医療に参入していたり、介護サービスを提供していたりする診療所にとっては、地域の介護サービスの供給状況を把握しておくことは必須だろう。今回は、訪問介護等の居宅サービスについて、介護サービスの供給状況を取り上げる。
居宅サービス事業所は過去20年間で急増
厚生労働省は毎年、介護サービス施設・事業所調査を実施しており、最新の結果として、2020年10月時点のデータが公開されている。今回は、居宅サービスについて見ていく。
居宅サービスについては、なじみの少ない方もいるかもしれないが、主な事業として、次のような整理ができる。
▽訪問介護:ホームヘルパーが利用者の自宅に訪問し、身体介護や生活援助を行う
▽通所介護:利用者が施設に通って、日常生活上の支援等を受ける
▽訪問看護:看護師が利用者の自宅に訪問し、療養上の世話や診療の補助を行う
▽短期入所:いわゆるショートステイ、家族の負担軽減も目的としてしている。
▽特定施設:指定を受けた有料老人ホーム等が、日常生活上の支援や機能訓練等を行う
これ以外に、福祉用具を貸与するサービスや、ケアプランを策定するケアマネジャーが常駐する居宅介護支援事業所等が、居宅サービスに該当する。
図は、居宅サービスの主な事業の事業所数の推移を示したもの。
居宅サービスの事業所数は、介護保険制度の成立、高齢者や要介護者の増加を受けて、過去20年間で急増している。2000年の事業所数を見ると、訪問介護が3500と最も多く、次いで通所介護の2400、短期入所の1万7000と続く。
トレンドを見ると、通所介護は、10年以降は伸び悩んでいることがわかる。この背景には、介護報酬の引き下げや競争の激化が影響していると考えられる。また、介護業界で全般的に言われることだが、給与を含む含労働環境の悪化を背景とした介護人材の不足が、大きな課題として挙げられる。報酬の引き上げやICTやロボットの活用による労働生産性向上が急務となっている。
特定施設は、2000年には288しかなかったが、2020年に5454施設と、最も増加率が高い。介護施設の最大手は、損保ジャパングループであり、居宅サービスは株式会社が運営できる事業が多い。そのため、上場企業を含め、大企業が多く参入している領域であり、近年もM&Aが活発に行われている。
図 主な居宅サービスの事業所数の推移
訪問介護の地域差は約4倍 訪問看護は約3倍
表は、主な居宅サービスのうち、利用者数の多い、訪問介護、通所介護、訪問看護の利用者数に関する都道府県比較である。
訪問介護を見ると、人口10万人当たりの利用者数は、和歌山県、青森県、大阪府の順に多く、栃木県、宮城県、沖縄県の順に少なかった。地域格差を見ると、人口10万人当たり訪問介護の利用者数が最も多い県と少ない県とで3.9倍の大きな差異が生じている。大阪府のように、介護保険施設が少ない地域では、それを補完するように、訪問介護の供給が多い傾向が見られ、介護保険施設の供給とは異なる傾向が見られた。
通所介護では、人口10万人当たりの利用者数は、山形県、岩手県、群馬県の順に多く、北海道、神奈川県、東京都の順に少なかった。地域格差を見ると、人口10万人当たり通所介護の利用者数が最も多い県と少ない県とで2.2倍の差異が生じている。東京都や神奈川県のように、介護保険施設が少ない地域で、通所介護も少ない傾向があり、自宅やそれに準じた生活の場所(特定施設やサービス付き高齢者向け住宅等)への訪問がメーンになっている可能性が考えられる。
訪問看護では、人口10万人当たりの利用者数は、大阪府、兵庫県、京都府の順に多く、茨城県、秋田県、沖縄県の順に少なかった。地域格差を見ると、人口10万人当たりの訪問看護の利用者数が最も多い県と少ない県とで3.0倍の大きな差異が生じている。大阪府のように、介護保険施設が少ない地域では、それを補完するように、訪問看護の供給が多い傾向があり、介護保険施設の供給とは異なる傾向が見られた。
このような都道府県比較を行う場合、本来であれば、要介護者数や介護保険施設の供給等を考慮する必要があるが、本稿では考慮できていな。いずれにせよ、居宅サービスにおける供給の地域差はかなり大きいことが改めて確認された。
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次回は、特定施設やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)も含めた要介護者の生活の場の供給について、深掘りしていく。(『CLINIC ばんぶう』2022年4月号)
表 主な居宅サービスの供給に関する都道府県比較
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務