デジタルヘルスの今と可能性
第52回
「医療の2025年問題」が
働き方改革を引き金に起こる?

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、2022年度診療報酬改定を踏まえ、2025年に医療界で起こるかもしれない問題を考えていく。

オンライン診療は前進を感じる改定内容

2022年3月4日、厚生労働省から22年度診療報酬改定の告示関連通知が発出された。
オンライン診療の初診料は、答申のまま251点、再診料(外来診療料も)は73点で決定した。今回は、この改定内容とともに私が2~3年後に考えている「医療の2025年問題」について話していこうと思う。

まず、オンライン診療料関連の話からしてしまうと、初診料は先述のとおり251点と決まったが、これは、施設基準を地方厚生局に届出をした医療機関に限られる。
今年4月以降、20年4月から続く時限措置の点数(214点)か、今次改定の点数(251点)のどちらを算定できるのかわかっていなかったが、施設基準の届出の有無で初診の点数が変わることが示されている。
また、再診料(73点)については、点数自体は変わらないものの、施設基準の届出を出している医療機関は再診料(情報通信機器を用いた場合)、届出をしていない医療機関は「電話再診料」で算定することとなっている。
まとめると、施設基準の届出医療関は新しい診療報酬で、届出していない医療機関は時限措置で算定すると理解してもらえばいいだろう。公益裁定で決定した点数なので大丈夫とは思っていたが、いずれにしてもオンライン診療が対面診療と近い点数で最終決定したのは、何よりだと思っている。
私のもとにも、4月以降のオンライン診療の運用について質問が寄せられたりと、関心が高まっているように感じている。おそらく、ここ2年近く横ばいだったオンライン診療の実施医療機関(約16%)が、キャズムを超えて、一般的な取り組みに近づくと思っている。

今次改定は、デジタル領域に関して一定の満足が得られた改定だったと思う。18年度、20年度改定と比べれば大きな前進だ。ただ、私はデジタル領域の診療報酬改定の本番は、次回の24年度改定だと考えている。それが、冒頭に言った「医療の2025年問題」と関連してくる。

医療の2025年問題は医師の働き方改革?

今、私が日本の医療政策で一番懸念しているのが、24年から本格実施となる医師の働き方改革だ。勤務医の時間外労働時間の上限規制が始まるのが24年4月で、簡単に言えば、研修医は年間1860時間以内の枠組みだが、通常の動務医は時間外労働が年間960時間以内となっていく。
この960時間という水準が、今の病院で働く医師の大半からずると「どれだけ少ないか」というのを知っていただけたらと思っている。単純計算で考えると、年間960時間を1カ月で割ると、1カ月当たりの時間外労働の上限は80時間。さらに4週間で割ると1週間当たり20時間だ。

この「時間外の労働が可能な時間」である20時間と法定の労働時間である40時間(8時間×5日間)を合わせた60時間が、単純に24年4月以降の医師が1週間に働ける労働時間というわけだ。
これは、すべての労働時間の合計のため、在籍する病院での勤務だけではなく、別の医療機関でのアルバイトや手術といった時間もすべて合わせて、1週間に平均60時間までだ(これはあくまで単純化した例で、より詳細に言えば、時間外労働の長い月と短い月が平均されて30時間以内になるようにされている)。
大学の勤務医やアルバイトで生計を立てている大学院生、そもそ医局に所属せず活動しているバイト医のような医師はすべて一律に、1週間当たり60時間の労働時間となっていくのだ。
日本の医療は、病院勤務医の先生方の自己犠牲によって支えられていると言っても過言ではないと思っているが、それが「崩れる」のが医師の働き方改革だと考えている。20~40代の男性勤務医の労働時間の中央値が、1週間で約60時間なので、単純化して言ってしまうと、約半分の労働力がなくなってしまうのだ。

2025年の日本の医療に想定される大混乱シナリオ

私が「医療の2025年問題」と言いたいのは、25年あたりに日本の医療提供体制が大混乱を起こすのではないかと考えているからだ。これには、主に2つのプランが挙げられる。
プランAは、24年の働き方改革に合わせて、その年の診療報酬改定で「デジタル大改革」とでも言うようなデジタルの導入が進められ過ぎたために、その対応におわれる医療現場が大混乱に陥るというケースだ。
プランBは、そうした「デジタル大改革」自体を、やはり今の日本で先んじて行うことができなかったというパターンだ。24年から、日本の医療を支えていた病院勤務医の労働時間が制限され、医療提供が減少する以上に医療の下支えが減ってしまうとわかっていながらも、何もできないまま年を迎えてしまう未来だ。
その場合、手段としてデジタルテクノロジー活用の必要性をわかっていながらも導入が進まない結果、25年あたりに医療提供不足を補えない事態が全国各地で発生していくのではないかと考えている。そうなると、次々回改定の年度改定での対応が必要になる。

過去、日本に黒船襲来して国内体制の大転換のきっかけとなったように、ここでの26年度改定ではむしろゼロイチに近いくらい、日本の医療制度見直しのタイミングになるのではないかと想像している。その過程で25年には一時的に提供の大混乱が起こるというシナリオだ。

「医療の2025年問題」として、いずれのシナリオも今から予想できるもののため、24年に向けていよいよデジタルの導入が医療現場で本格化していくと考えている。(『CLINIC ばんぶう』2022年4月号)

図 医師の時間外労働規制

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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