DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
介護サービスの供給状況の地域差②
―2020年全国調査から―

超高齢社会を迎える今、診療所にとって、介護との連携はますます重要になっている。特に、在宅医療に参入していたり、介護サービスを提供していたりする診療所にとっては、地域の介護サービスの供給状況を把握しておくことは必須だろう。今回は、介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)を深掘りしていく。

利用率は、特養で96% 老健で89%

前回、介護保険施設の定員数の内訳として、特養および老健の合計で全体の95%を占めることを示した。施設系の利用率を都道府県別に比較したのが図である。

特養のほうが、全国的に利用率が高いことがわかる。この背景には、特養が生活の場であり在所日数が長いのに対して、老健は在宅復帰に向けた療養の場であり在所日数が短いことから、ベッドが空きやすいという事情があるだろう。また、地域にもよるが、特養のほうが、入所を待っている待機者数も多いことも要因の一つだろう。

老健は、利用率の都道府県格差も大きい。沖縄県は96%と最も高かったのに対して、最も低かった岐阜県は、82%だった。これだけ利用率が違うと、スタッフの確保状況にもよるが、利益率もかなり異なるのではないだろうか。

1施設当たり定員 特養1.7倍、老健2倍

表は、今までとは別の視点から、特養とについて、数値を拾ってきたものである。具体的には、特養と老健の1施設当たりの定員数、すなわち施設の規模の比較や、特におけるたんの吸引等の医療行為ができる介護職員の配置状況(対定員数)、老健における医師の配置状況(人口10万対)について分析した。
特養の1施設当たりの定員数を見ると、最大値は、東京都の88人に対して、最小値は、島根県の52人だった。施設当たりの定員数が最も多い県と少ない県とで、1.7倍の差異が生じている。
他方で、老健の1施設当たりの定員数を見ると、最大値は、神奈川県の107人に対して、最小値は、鳥取県の55人だった。施設当たりの定員数が最も多い県と少ない県とで2倍の差異が生じている。

施設規模の都道府県間の差異はそれなりにある。一定の規模がないと、効率的な経営がしにくくなる恐れがある。
入所者の療養環境の整備も含め、最適な規模について、検討の余地があるかもしれない。

たんの吸引ができる職員配置 地域差は5.2倍

高齢化や要介護度の重度化に伴い医療的ケアを必要とする特養の入所者が増加している。
特養は、医療の提供を主な目的とした施設ではないため、看護職員の配置等の医療提供体制が十分ではなく、たんの吸引や経管栄養が必要となる要介護者の入所が難しいといった課題があったことから、2011年から、研修を受けることで介護職員も、たんの吸引等の医療行為ができるようになった。
医療行為ができる介護職員の配置状況(対定員数)を見ると、最大値は、鳥取県の0.26人に対して、最小値は栃木県の0.05人だった。最も多い県と少ない県とで、5.2倍の差異が生じている。
入所者の属性や看護師の配置など、詳しく見る必要があるが、地域によって受けられるサービスが異なる可能性について、確認する余地がある。

老健における医師の配置(人口10万対)を見ると、最大値は鳥取県の7.1人に対して、最小値は東京都の1.7人だった。施設当たりの定員数が最も多い県と少ない県とで4.3倍の差異が生じている。老健には、常勤医師を1人以上配置しなくてはならない。老健の施設規模は、東京都が神奈川県に次いで大きく、鳥取県が最も小さかったことも影響しているだろう。

*

次回は、訪問介護など、居宅サービスについて取り上げる。(『CLINIC ばんぶう』2022年3月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング