DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
介護サービスの供給状況の地域差①介護保険施設
―2020年全国調査から―

超高齢化社会を迎える今、診療所にとって、介護との連携はますます重要になっている。特に、在宅医療に参入していたり、介護サービスを提供していたりする診療所にとっては、地域の介護サービスの供給状況を把握しておくことは必須だろう。そこで今回から数回にわたって、介護サービスの供給状況の地域を取り上げる。

介護保険施設の定員は過去20年間で急増

厚生労働省は毎年、介護サービス施設・事業所調査を実施しており、最新の結果として、2020年10月時点のデータが公開されている。今回は、介護サービスの中でも、介護保険施設にフォーカスを当てて、そ地域差についてみてみよう。

図は、介護保険施設の体系別定員数の推移とその内訳を示したものだ。介護保険施設については、なじみの少ない方もいるかもしれないが、次のように整理できる。

▽介護老人福祉施設(特養)
→要介護高齢者の生活の場

▽介護老人保健施設(老健)
→要介護高齢者の在宅復帰に向けた療養の場

▽介護医療院
→18年に制度化された、医療と介護のニーズを併せ持つ高齢者を対象に、医療機能と生活機能を提供する場

▽介護療養型医療施設
→介護医療の前身、22年度末で廃止子定

介護保険施設の定員数は、高齢者の人口および要介護者の増加を受け過去20年間で約65万人から約100万人へと、55%も増加した。特に介護老人福祉施設(特養)は、過去20年間で、約30万人から約58万人へと、93%も増加した。一方、介護療養型医療施設は介護医療院と合わせても減少傾向にある。

介護療養病床は政策誘導で廃止へ

介護療養型医療施設廃止の背景には、介護保険施設である「介護療養型医療施設(介護療養病床)」と医療保険の対象となる「療養型病院(医療療養病床)」の違いがなくなっていたことが挙げられる。厚労省の調査によれば、両施設において、「医療の必要性が高い患者と低い患者が同じ比率で混在している」ことや、医療を必要としていない高齢者が介護療養病床を利用している」ということが明らかになったためだ。加えて、多くの介護療養病床が多床室で、生活の場というには療養環境が十分ではなかった。

この間、個室率の高い、特定施設やサービス付き高齢者向け住宅が急増し、当該殺への在宅医療が普及したことで、入院するほどではないが一定の医療が必要な要介護者に対する療養環境が整ったことも、介護療養病床が減少した要因の一つだろう。このように、介護保険施設の機能分化が政策的に誘導されてきた。

人口当たり介護保険施設定員地域差は約2.3倍

表は、介護保険施設定員数の都道府県比較である。人口10万人当たり介護保険施設の定員数は秋田県、新潟県、島根県の順に多く、東京都、愛知県、沖縄県の順に少なかった。地域の格差を見ると、人口10万人当たりの介護保険施設定員数が最も多い県と少ない県とで2.3倍の差異が生じている。介護保険施設の定員数が少ない県は、比較的、大都市圏の都道府県が該当していた。このような都市部は、入居者やその家族の所得・資産が大きいことや、不動産の価格と入居費用が釣り合わないことから、介護保険施設の代わりを特定施設やサービス付き高齢者向け住宅が担っていることが推察される。

特養を見ると、人口10万人当たりの定員数は、秋田県、山形県、島根県の順に多く、沖縄県、愛知県、東京都の側に少なかった。地域格差を見ると、特養定員数が最も多い県と少ない県とで2.3倍の差異が生じている。供給状況の地域差は、介護保険施設定員数と似たような傾向が見られた。

老健を見ると、人口10万人当たりの定員数は、徳島県、鳥取県、秋田県の順に多く、東京都、滋賀県、神奈川県の順に少なかった。地域の格差を見ると、最も多い県と少ない県とで3.5倍の差異が生じている。徳島県、鳥取県は、介護老人福祉施設は多くはなく、介護老人保健施設が、それを補っている傾向が見られた。

介護医療院と介護療養病床を見ると、人口10万人当たりの定員数は、高知県、富山県、徳島県の順に多く、宮城県、山形県、大阪府の順に少なかった。地域格差を見ると、最も多い県と少ない県とで34.3倍の差異が生じている。他の施設体系と比べて地域差が大きい理由として、歴史的に、民間病院が病床を整備してきたことや、介護療養病床の廃止に伴う再編の過渡期にあることが考えられる。

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本稿では、介護サービスのうち介護保険施設の供給状況について、取り上げた。次回は、介護老人福祉施設(特養)や介護老人保健施設(老健)の状況について、もう少し深掘りしていく。(『CLINIC ばんぶう』2022年2月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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