DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
薬剤師の現状を読み解く
―2018年全国調査から―

前回は、診療所の歯科医師を取り上げ、開業志向の低下、グループプラクティスの推進、医師の高齢化等の状況について、実際のデータを用いて紹介した。今回は、同じデータを用いて、薬剤師について、分析する。

薬局開業志向は低下 薬局薬剤師は2・2倍に

厚生労働省は2年に1回、医師・歯科医師・薬剤師統計を行っている。前回は2018年の末に行われ、集計結果が公開されている。

図は、全国の薬剤師がどこで従事しているかについて、「薬局」「医療施設」「製薬会社等」「その他」「無職」という区分で、1998年から2018年までの20年間における10年ごとの薬剤師数をグラフにしたものである。
過去20年間で薬剤師数は20万6000人から31万1000人と、51%増加した。このうち薬局に勤務する薬剤師数は8万1000人から18万人と、122%増加した。増加のほとんどを薬局が吸収しているのがわかる。過去10年でみると、医療機関勤務の薬剤師が増加した一方で、製薬企業等に勤務する薬剤師は減少傾向にある。

薬局の薬剤師数の内訳をみると、開設者は2万1000人から1万7000人と、むしろ減少している。つまり、薬剤師の開業志向は低下傾向にあり、薬局の統合再編が進んだことがうかがえる。他方、薬局の勤務者は倍増していることから、法人当たり薬剤師数が増加し、大規模化が進んでいる。
この背景には、医薬分業が進むなかで、巨大な資本を背景に「門前薬局」をチェーン展開する調剤薬局が業界再編をリードして、大規模化を進めたこと、競争の激化によって、開業による経営的なリスクをとりたくない薬剤師が増えたこと、時短勤務といった薬剤師の働き方の多様化にともない、薬剤師1人体制では事業継続が難しくなっていることなどが考えられる。

人口10万人当たり 薬剤師数の地域差は2倍

表は、薬剤師数の都道府県比較である。人口10万人当たり薬剤師数は、東京、徳島、大阪の順に多く、福井、青森、沖縄の順に少ない。地域の格差を見ると、人口10万人当たりの薬剤師数が最も多い県と少ない県で2.3倍の差異が生じている。
大都市や地方都市では薬剤師数が増加傾向にあるものの、増加率は鈍化している。また、過疎地域では既薬剤師数の減少が始まっている。このことから、薬剤師数についても、地域偏在が拡大している可能性がある。薬剤師の地域偏在の状況を見ていると、薬剤師の少ない地域への移住によって、給与増が期待できる部分があるのかもしれない。

薬剤師の平均46歳 医師・歯科医師に比べ若い

薬剤師の高齢化も課題だ。薬剤師高齢化率(65歳以上の割合)は全国で10%となっており、都道府県別では和歌山、沖縄、高知の順に高く、和歌山では18%に達していた。一方で、茨城、大阪、東京の順に低く、一番低い東京都で8%だった。
診療所の医師の平均年齢が60歳、歯科医師の平均年齢が54歳であることを考えると、薬剤師の平均年齢は相対的に低いという見方もできる。しかし、地域によっては薬剤師の高齢化がかなり進んでおり、薬局の事業承継が難しい場合、薬局の減少が進むとみられる。日本の薬剤処方は、医薬分業の進展により、主として薬局で行われていることから、地域医療への影響について、留意が必要だ。
実は、日本の薬剤師数は、先進国のなかでも、人口比で多い水準にある。これは、医師や看護師が人口比で少ないのと対照的である。そのため、医師からのタスクシフトを含め、薬剤師の業務の幅の拡大余地を有しているといえる。また、医師と同様に、薬剤師の偏在対策に関する議論を行政主導で進めていくことも考えられる。他方で、サービスをワン・ストップで行う観点から、あえて薬剤の処方も院内で行う診療所が増加している。今後、オンライン診療が普及すると、その傾向はますます強くなる可能性もある。

本稿では、薬剤師を取り上げて、薬局開業志向の減少、薬局の大規模化・チェーン化、薬剤師の高齢化等の状況について、実際のデータを用いて紹介した。医歯薬連携に向けたさまざまな事業展開の可能性について、考えてみてはいかがだろうか。(『CLINIC ばんぶう』2022年1月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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