デジタルヘルスの今と可能性
第50回
オンライン診療の初診解禁に
かかわる5つの論点
「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、2022年度診療報酬改定に向けた、オンライン診療関連の動向について解説する。
恒常的な初診解禁に向け制度見直しの議論続く
今回は、いよいよ間近に迫った診療報酬改定に向けてオンライン診療の方向性がどのように定まってきているのかについて話をしていこう。
まず2020年12月に開かれた「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」の第13回会合では、オンライン診療に関する制度の見直しに関連したスケジュールが発表された。そこでは、21年6月ごろにオンライン診療恒久化に向けた取りまとめ、10~11月を目途に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の見直しを行うとしていた。
そして、指針改定後も、▽受診歴のない患者に対してオンライン診療を行う場合に必要な健康情報について(診療情報ネットワークなど)、▽オンライン診療の事前のトリアージシステムの精度の向上――などを話し合うことが示されていた。
6月の取りまとめについては本連載でも触れたが、6月16日に閣議決定した「骨太方針2021」や「規制改革実施計画」「成長戦略実行計画」で、“オンライン診療を幅広く適正に活用するため、初診からの実施は原則かかりつけ医によるとしつつ、事前に患者の状態が把握できる場合にも認める方向で具体案を検討する”となった。
そのなかで今回、11月10日開催第18回同検討会にて、初診からのオンライン診療の取り扱いについて、一定の見解が示された。
「オンライン診療の申込みから診療までの流れ」が図示されたとともに(図)、①初診に必要な医学的情報、②診療前相談、③症状、④処方、⑤対面診療の実施体制――という5つの論点で議論が行われている。
図 オンライン診療の申込みから診療までの流れ(イメージ)
(出典:第18回「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」資料1)
初診オンライン診療に関する5つの論点
まず①に関しては、患者の症状や背景が多様なことから、一律の基準を定めることは困難とされ、医師の判断に任せることとなっている。具体的には、オンライン診療実施前に患者が保有する医学情報を医師に提供し、患者の状態と併せて医師が判断するとされた。
この「患者が保有する医学情報」とは、平素の診療で患者が訴える症状や既往歴などであると思う一方、現在、厚生労働省が総力を上げて進めているデータヘルス改革における、PHRの活用を将来的には見据えているのではないかと考えている。
事前にこの情報が得られない場合や、既存情報だけでは実施の可否を判断できない場合には、「給療前相談」を実施する。オンライン診療の実施には、医師と患者双方の合意が必要ということだ。
②は、「オンラインでのやりとリ」ともされているが、どのようなことを指すのか。これについては、「受診歴がなく、十分な医学的情報も得られていない患者に対し診療を行おうとすることから、個別の症状から勘案し問診および視診を補完するべく、オンライン診療に必要な患者の医学的情報を丁寧に得ることで安全性および信頼性を担保することを目的とした枠組み」とされている。
私の解釈で簡単に言うと、「事前情報のない患者をオンライン診療で問診・視診するときにその補完となる情報を聞くこと」だと思っている。しかし、ここで注意が必要なのが、この診療前相談については現在のところ、“医師本人と患者本人がリアルタイムで行う必要がある”と明記されていることだ。すなわち、事前問診などの記載・入力は含まれていない。
とはいえ、“リアルタイム”という表現で、「テレビ電話」「オンライン対面」限定もされていないため、チャットでのやりとりは、可能なのかもしれない。引き続き、注目すべきだろう。
そして、「(診療前相談を経て)オンライン診療に至らなかった場合にも、診療前相談の記録は診療録に準じて保存しておくことが望ましい」とされ、診療録への保存は必須ではないことからも、非医療行為の枠組みであることが推察される。そうなると、医師法などの法律上での取り扱いからというよりも、「患者の心身の状態に関する適切な情報を聞き取り、医師と患者間の信頼関係を構築する」観点から“リアルタイム”と明記していると思われる。
③に関しては、日本医学会連合が作成している「オンライン診療の初診に適さない症状」等を踏まえ、医師が適切か判断することとしている。
また、④に関しても、同連合が「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」を取りまとめており、こうした関係学会が定める診療ガイドラインを参考に行うこととなっている。
最後の⑤だが、「初診からのオンライン診療は原則かかりつけの医師が行うものであり、対面診療が必要になった場合には当該かかりつけの医師が行うことが原則」と明記されたことが、特徴的と言えるだろう。
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今回の方向性からは、かかりつけ医を担うほとんどの診療所に対し、「オンライン診療を行ってもらう」ような指針となる印象を受けた。私の考えでは、オンライン診療は「外来」「入院」「在宅」に次ぐ第4の診療形態であり、入院施設を持つ、在支診を届け出ると同様に、実施する・しないは診療所側が選ぶものだと思っている。
一方、初診からのオンライン診療を原則かかりつけ医が行うものとすることは、逆説的にすべてのかかりつけ医がオンライン診療をすることを意図しているということだ。もちろん、オンライン診療を必要とする患者に届くように「普及」させる必要はあるが、「診療所のオンライン診療実施率」がその指標ではないと考える。
診療報酬改定も踏まえて、オンライン診療の動向がここからどのように定まっていくのか、ぜひ注目してもらいたいと思う。(『CLINIC ばんぶう』2021年12月号)
(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上