DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
診療所歯科医師の現状を読み解く
― 2018年医師調査から―

新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に外来患者数は減少しており、診療所の閉鎖や売却の話をぽつぽつ聞くようになった。このような環境下、診療所の歯科医師の数が近時どのような推移を経ているのかを見ていくことは、診療所の事業展開を考えるうえで役に立つこともあるだろう。本稿では、実際のデータを紹介しながら検討する。

診療所勤務医1.6倍に

厚生労働省は2年に1回、医師・歯科医師・薬剤師統計を行っている。前回は2018年の末に行われ、その集計結果が公開されている。
図は、全国の歯科医師がどこで従事しているかについて、病院、診療所(開設者または勤務医)、その他という区分で、1998年から2018年までの20年間における10年ごとの歯科医師数をグラフにしたものである。

過去20年間で歯科医師数は8万8000人から10万5000人と、19%増加した。診療所の歯科医師数は7万4000人から9万人と、22%増加した。病院の歯科医師は横ばいであり、歯科医師の増加のほとんどを診療所で吸収しているのがわかる。
診療所の歯科医師数の内訳をみると、開設者は5万5000人から5万9000人と、約6%の増加にとどまっている。特に08年と18年を比較するとやや減少しており、医師の開業志向は低下傾向にあることがうかがえる。

他方、診療所の勤務医(開設者でない)は1万9000人から3万1000人と、1.6倍となった。日本では従来、1人開業医が多かったが、近年は歯科医師を確保しやすい都市部を中心に、グループプラクティス化が進んでいることがわかる。
この背景には、予防歯科医療の普及などを背景とした外来患者数の減少にともなう診療所の競争の激化によって、開業による経営リスクをとりたくない歯科医師が増えたこと、時短勤務といった歯科医師の働き方の多様化にともない、歯科医師1人体制では診療継続が難しくなっていることなどが考えられる。

歯科医師数の地域差は2倍

表は、診療所歯科医師数の都道府県比較である。人口10万人当たりの歯科医師数は、東京都、福岡県、徳島県の順に多く、滋賀県、島根県、青森県の順に少なかった。地域の格差を見ると、人口10万人当たりの歯科医師数が最も多い県と少ない県で約2倍の差異が生じている。
大都市や地方都市では、診療所歯科医師数が増加傾向にあるものの、増加率は鈍化している。また、過疎地域ではすでに診療所歯科医師数の減少が始まっている。
このことから、診療所の歯科医師についても、地域偏在が拡大している可能性がある。歯科医師の給与は右肩下がりとなっているが、歯科医師の地域偏在の状況を見ていると、歯科医師の少ない地域への移住によって、給与増が期待できる部分があるのかもしれない。

平均年齢は54歳

診療所歯科医師の高齢化も課題だ。歯科医師の高齢化率(65歳以上割合)は全国で21%、75歳以上の割合は5%となっている。65歳以上割合は大分県、和歌山県、島根県の順に多く、大分県は31%に達していた。一方で、沖縄県、埼玉県、神奈川県の順に低く、一番低い沖縄県で13%であった。
診療所の医師の平均年齢が60歳であることを考えると、歯科医師の54歳は、相対的に低いという見方もできる。

地域によっては、歯科医師の高齢化がかなり進んでおり、事業承継が難しい場合には、歯科診療所の廃止・減少が進むとみられる。日本の歯科診療は、診療所メーンで行われていることから、地域医療への影響について、留意が必要だ。

一時期、新型コロナウイルスワクチン予防接種を歯科医師が行うことについて、議論が行われた。仮に歯科医師の供給が過剰になっているとすれば、歯学部における学生定員の絞り込み、多様なキャリアパスの整備、麻酔など一部手技の医師からのタスクシフトを行うといった対策が必要なように思われる。また、医師と同様に、歯科医師の偏在対策に関する議論を行政主導で進めていくことも考えられる。

本稿では、診療所の歯科医師を取上げ、開業志向の減少、グループプラクティス化、医師の高齢化等の状況について、実際のデータを用いて紹介した。医科診療所の経営者にとっても、歯科の併設を含め、医科歯科連携に向けたさまざまな事業展開の可能性について考えてみてはいかがだろうか。(『CLINIC ばんぶう』2021年12月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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