デジタルヘルスの今と可能性
第49回
デジタル&企業共創型診療所で
新しい価値の創出を目指す

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今月はデジタル化や企業との連携など、診療所の将来について考える。

2022年3月 診療所を開業する

先月は医療業界における大きなデジタル変革をとりあげたが、今月は診療所の将来について話をしていこうと思う。

ここでいきなり個人的な発表となって恐縮だが、来年3月に診療所を開業することになった。すで9月末にテナントの契約を行っており、現在はこれまでの仕事と並行して開業の準備をしているところである。
開業とは言っても自分の専門分野である眼科で開業するわけではなく、主となる診療科を担う先生と共同経営のスタイルでの開業になる。管理医師や主となる診療科についてはその先生に任せて、自分は診療所経営を中心に行う予定だ。通常の保険診療中心の診療所でありながら、面白いことを何点かしながら独自の診療所をつくっていこうと思っている。ここではその新しい診療所で行おうと考えていることをいくつか紹介する。

オンライン診療を含めデジタルクリニックを志向

まず1つ目は、現時点におけるIT化が最大となるような診療所をつくることである。
予約システムや問診システム、電子カルテやオンライン診療システムやファイリングシステム、レセコンや自動精算機――など、診療所のIT化のためのシステムはたくさんある。数が多いだけに、現時点での最適解は何なのか種類も豊富なために、わかりにくくなっていると思う。
私は、ほとんどすべてと言っていいくらい、これらのITシステムを実際に触ろうとしている途中だ。読者の先生方には言うまでもないが、各種サービスには一長一短があり、それを使いながら実感できたことは、最終的にその製品を選ばなかったとしても、とても良い経験となっている。

これまで医療機関のIT化に関するそれらシステムの開発に協力してきたが、偉そうなことを言っていても「診療所で使うユーザーの視点」が少なかったのではないかと思うこともあった。
どのようなITシステムを導入するかは本稿の執筆時点では検討中で、決めていることは「電子カルテはクラウドにする」ということだけだ。

今後の医療を見通したときに本連載でも何度も触れてきたが、オンライン診療を無視して医療提供を行うことはできなくなると思う。在宅診療でも、毎回訪問するのではなく2回に1回はオンライ診療として活用されている。このような時代に電子カルテが医療機関内でしか確認できない(オンプレ)ものでは使い勝手が悪くなるのではなかろうか。

また現実とは少し離れているが、今後の理想の話をすると、ITシステムによるデジタル化は人の削減にもつながるので、究極の話、診療所の医療事務職ゼロを目指したい。もちろん患者さんの受付や保険証の確認、会計の支払いなどの窓口業務に加えて、毎月のレセプトなどもあるため、2021年時点で、ゼロにはできない。ただ今後、「医療事務に詳しい人だけがレセプトの作業ができる」から、「誰でもレセプトなどの会計に関する業務ができるようになる」という方向に進むはずだ。その視点をもってサービスを選んでいこうと考えている。

企業が現場を知る場に協同開発にも取り組む

2つ目としては、企業が診療所向けのサービスをつくろうとしたときに、現場の状況を確認できる場所にしたいと思っている。

医療業界においてデジタル化が進まない理由の1つとして、サービスを開発するプレーヤーが少ないことが挙げられる。
特にすでに医療業界にいる企業以外からの参入は非常に少ない。ほかの業界から医療業界のサービスをつくろうとする企業が少ないのである。
ヒアリングをするとその原因として、医療現場がどうなっているかわからない、医療制度がわからない、どういうサービスが足りていないかわからないなどといった、意見がある。
そこで、医療領域に参入したい企業が医療現場を知ることができる場をつくりたいと思っている。企業と一緒に新しいサービスを開発することは、診療所の業務改善を進めるうえで理想と言えよう。

勤務医が稼げる新たな働き方を生み出す

3つ目は、医師の働き方に関するものである。現在、病院や診療所の勤務医でない場合、医師はフリーランスとして生きるか、開業するかの2択を迫られる。フリーランスの医師の多くは定額のバイト代、開業をすると患者さんの診察数に比例して診療所の売上が上がり、これが収入となる。このフリーランスの医師と開業医の間の働き方を提案できないか、具体的にはリスクも共有しながら診察数が多いと売上も比例するようなシステムをつくりあげることができないかと考えている。

私は今年9月に一橋大学大学院の金融戦略・経営財務プログラムのMBA(いわゆるファイナンスMBA)も取得した。ただ経営理論は学んだものの、まだ実践が足りない。

早いもので来月でこの連載は5年目となるが、診療所経営に携わることで、これからますます本連は開業医の先生方の役に立つようパワーアップさせていきたい。ぜひ引き続き期待していただければありがたい。(『CLINIC ばんぶう』2021年11月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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