デジタルヘルスの今と可能性
第48回
デジタル庁がいよいよ創設
社会も医療界も変化する9月

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。

他業種の人と交流し社会全体の視点を獲得

今回は、9月が社会だけでなく、「医療界においても大きな変化の月だという話をしていこうと思う。
まず、とても個人的な報告だが、2019年から入学した一橋大学大学院の経営管理研究科を9月に晴れて卒業し、MBA(経営管理学修士)を取得した。ここ20年で卒業生は653人のみ、年間30人弱の「金融戦略・経営財務MBA」の学位で、学位論文審査と最終試験というハードな大学院プログラムを送ってきた。

卒業論文のタイトルは、「医療ベンチャーにおける起業家特性が資金調達に及ぼす影響」とした。医療ベンチャーの起業家にはその背景としてどのような特性があるかをリストアップし、それらとべンチャーの資金調達の関係を考察したものである。医師や医療者に関して、創業時の年齢の若いほど資金調達が行われやすく、今後は企業成長との関係性も引き続き研究していくつもりだ。

今回大学院に通って一番よかったのは、MBAの知識を体系的に学べたこともあるが、それよりも異分野の人との交流だ。医療界ではどうしても同業種との交流が多く、他業界の人との交流が少なくなりがちである。これは、社会の動向と少し距離があると言える。
大学院では、同じくMBA取得を目指す人、あるいは別の大学ですでに取得した人など、普段会うことのない将来の金融界、産業界を担うと言われている人と出会うことができ、「社会全体として日本をどうするか」という視点が得られ、自分の中の「意識」が一番変わったと感じている。
近況報告が長くなったが、私も引き続き、医療界や産業界を担う人材になるべく尽力したい。

ついにデジタル庁発足 今後の動向は?

では、本題に入ろう。9月の番大きく日本が「変わる」ような動きといえば、1日の「デジタル庁」発足だろう。同庁については、本連載でも何度か取り上げてきた。21年5月12日のデジタル関連法案の成立にともない創設が決定、既存の各省庁を横断したデジタル改革に取り組む庁だ。
同庁が目指す姿は、図にまとまっている。主な項目は次のように整理されている。

①徹底したUI・UXの改善と国民向けサービスの実現
②デジタル社会の共通機能の整備・普及
③包括的データ戦略
④官民を挙げた人材の確保・育成
⑤新技術を活用するための調達・規制の改革
⑥アクセシビリティの確保
⑦安全・安心の確保
⑧研究開発・実証の推進
⑨計画の検証・評価

あと、一般的に省庁の役割は、経済産業省なら「経済産業省設置法」、厚生労働省なら「厚生労働省設置法」というように、各種法律で定められている。デジタル庁に関しても、「デジタル庁設置法」にその役割が書かれていて、代表的なものは表のとおりだ。
今回、特に2(2)にある「関係行政機関の長に対する勧告権」というのがポイントだ。勧告権というのは行政機関やその長が、他の行政機関(その長)に対して意見を提出する権利のこと。つまり、「デジタル大臣が厚生労働大臣などに意見を言える」ということで、医療のデジタル化の後押しになるのではないかと思っている。

わかりやすいところでは、全体の40~50%で急に普及率が増えなくなっている電子カルテなどについて、デジタル庁から厚労省へ意見を述べるといったことが考えられる。勧告があれば、厚労省は今以上に動き、停滞する電子カルテの導入の背を押すことになるのではないだろうか。

厚労省概算要求にもデジタル庁との協働の兆しが

また、8月26日には、厚労省の22年度概算要求の概要が公開されたが、そのうち医政局の予算請求の項目で、デジタル庁を担当とした「全国の病院等を検索できる医療情報サイトの構築(8.66億円)」が公開されている。
概要としては、21年度から実施している、「全国の病院等を検索できる医療情報サイト」の運用開始に向けた取り組みを進め、医療情報サイトを構築するとのことだという。スマートフォンや外国語、ユニバーサルデザインなどにも対応のうえ、生活者や患者にとっても利便性の高い閲覧システムとしようとしているようだ。

NDBから抽出・集計したデータの活用を新たに導入することとしているようで、公表されるデータの正確性向上と、病院等の報告にかかわる業務の負担軽減をしようとしている。また、国民の医療機関への上手なかかり方を広めるシステムを構築することも考えられている。

そのほか、医師のキャリアとしてデジタル庁での新しい取り組みとしては、医療機関開発を担う医師育成のためのモデル事業も予算請求されていた。
本連載が掲載される『クリニックばんぶう」10月号が発売されるころには、9月末の自民党総裁選で新たな総理候補が決まっているはず。社会も、医療界も、この9月に大きく変わっていく兆しを感じている。(『CLINIC ばんぶう』2021年10月号)

図 デジタル庁が目指す姿

(出典:政府CIOポータル「デジタル社会の実現に向けた重点計画」2021年6月)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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