DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
特定健診から読み取れる
外来診療の質と地域差
前回に引き続き、「第5回オープンデータ」から外来診療や特定健診の実態を読み解いていく。6回目となる今回は、特定健診を取り上げることで簡易な方法ではあるものの、前回とは異なる角度から外来診療の質とその地域差を見てみよう。
男女別に見たHbA1cの地域差
特定健診では各実施項目の結果が、年齢階級別の値別に公開されている。本稿では、主要な生活習慣病で外来患者数の多い糖尿病と脂質異常症の指標である、HbA1cとLDL-Choを取り上げていく。なお、本稿で用いたデータは17年時点と、少し前のものである。
HbA1cは、過去2~3カ月間の血糖値のコントロール状態を示す指標だ。正常値は5.8%以下とされており、6.5%以上が糖尿病型に分類される。糖尿病患者の血糖コントロールは、HbA1cが6.5%以下であれば「良好」、7.0%以下であれば「可」とされ、合併症予防の観点からは、6.5%以下に維持することが推奨される。
HbA1c(男性)の地域差
図1は、都道府県ごとの男性におけるHbA1cの分布および6.5%以上の割合を示したものである。糖尿病型に分類されるHbA1cが6.5%以上の割合は全国で9.5%となっており、最大である熊本県(11.3%)と最小の東京都(8.0%)の比は1.4と、相応の地域差があるとわかる。
HbA1c(女性)の地域差
一方、図2では都道府県ごとの女性におけるHbA1cの分布および6.5%以上の割合を示した。糖尿病型に分類されるHbA1cが6.5%以上の割合は全国で4.6%、最大の佐賀県(6.6%)と最小の東京都(3.8%)の比は1.7と、こちらも相応の地域差があった。
地域住民や自院患者のHbA1cを定期的に測定し、改善状況をモニタリングするのは、外来診療の質を可視化・改善するうえで重要な取り組みだろう。以前から医療の質の測定に取り組んでいた聖路加国際病院では、かかりつけ患者に対しHbA1cが6.5%以下の患者割合を測定し、モニタリングしてきた。
測定結果は医師単位で比較され、非専門医においてコントロールが悪いこと、処方内容が必ずしもガイドラインに準拠していないことなどを明らかにしたうえで、医師向けの勉強会を実施して当該指標を改善したそうだ。価値に基づく医療を推進していくうえでは、こうした医療の質評価の取り組みを広く外来診療で実施していくべきではないか。
男女別に見たLDL-Choの地域差
日本動脈硬化学会では、LDL-Cho140mg/dl以上、HDL-Cho40mg/dl未満、中性脂肪値150mg/dl以上の場合に、脂質異常症が疑われるとしている。
LDL-Cho(男性)の地域差
図3に、都道府県ごとの男性におけるLDL-Choの分布および140mg/dl以上の割合を示した。
全国での割合は28・1%で、HbA1cと比べて異常値の割合が高い。最大の和歌山県(30.4%)と最小の秋田県(23.8%)の比は1.3と、相応の地域差があるとわかる。
LDL-Cho(女性)の地域差
図4は、都道府県ごとの女性におけるLDL-Choの分布および140mg/dl以上の割合だ。全国での割合は28.5%と男性と同様で、最大の和歌山県(33.8%)と最小の石川県(24・8%)の比は1.4と、相応の地域差が見られた。
和歌山県は男女ともにLDL-Choが140mg/dl以上の割合が最も高かった。
こうした地域差の背景には、個人の遺伝や環境要因に加え、外来における指導や処方の状況が関与しているのかもしれない。
脂質異常症についても糖尿病と同様、外来診療におけるかかりつけ患者のコントロール状況を、改めて見直してみてはいかがだろうか。(『CLINIC ばんぶう』2021年9月号)
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務