DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
第5回NDBオープンデータを読み解く
~外来診療の地域差~
「NDBオープンデータ」をご存じだろうか。NDBとはNational Data baseの略であり、医療機関から保険者に対して発行されるレセプトと、40歳以上を対象に行われている特定健診の結果からなる全国規模の巨大なデータベースである。2016年10月から、医療の提供実態や特定健診の結果等について、性別や年齢、地域による差異をわかりやすく示すことを目的として一部の集計結果が「オープンデータ」として公開されている。
最新の「第5回オープンデータ」は、20年12月に公表されており、誰でも厚生労働省ホームページ※1から閲覧することができる。内容は回を重ねるごとにアップグレードされており、近年は集計したデータだけでなく、それらをまとめた解説や図表が参考資料として添付されるようになっている。第5回は、データの年度が新しいもの(レセプトが18年度、特定健診が17年度)に更新されたほか、「二次医療圏別」の集計について、前回は一部の診療行為だったものが、医科診療行為の「基本診療料」すべての項目に拡大された。
本稿では、第5回オープンデータからわかる外来診療や特定健診の実態をデータから読み解いていく。具体的には、都道府県ごとの差異について、①外来診療において算定件数の最も多い初診料・再診料、②地域連携の指標ともなる診療情報提供料(1)、③休日深夜の対応状況の指標ともなる休日加算・深夜加算――の状況について取りまとめた。
※1:https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000539640.pdf
初診料・再診料の地域差はどうなっている?
図1は、都道府県ごとの人口1人当たり初診料および再診料の算定件数を示したものである。全国平均は、初診2.0件、再診8.3件となっている。地域的には、やや西高東低の傾向がみられ、初診の最大(東京都)と最小(岩手県)の比は1.5、再診の最大(佐賀県)と最小(沖縄県)の比は1.8となっている。地域によって、再診の回数に差異がみられるのも興味深い。罹患率だけでなく、受診頻度や受診間隔にも違いがあるのだろうか。
図2は、都道府県ごとの人口千人当たり診療情報提供料(1)の算定件数と診療情報提供料件数/初診件数の割合を示したものである。全国平均は、件数が220.7件、割合が11%。こちらもやや西高東低の傾向がみられ、件数の最大(大阪府)と最小(福島県)の比は1.8、割合の最大(京都府)と最小(沖縄県)の比も1.8。診療情報提供料の算定が大阪府や東京都で多いことは、大都市で診療機能の分化が進んでいることを示唆しているのだろうか。
図3は、都道府県ごとの人口千人当たり休日加算(初診)・深夜加算(初診)の算定件数を示したものである。全国平均は、休日加算38.5件、深夜加算8.3件。全般的に西高東低の傾向がみられ、休日加算の最大(宮崎県)と最小(大阪府)の比は2.3、深夜加算の最大(沖縄県)と最小(香川県)の比は2.7だった。
これらの加算は大都市で多い傾向があると推測していたが、休日加算の最小が大阪府というのは意外だった。日曜も通常どおり診療している医療機関が多いのだろうか。深夜加算の最大が沖縄県であったのも特徴的であった。受診する患者の意識や受け入れる側のキャパシティーに何か特徴があるのだろうか。
データの利活用にあたっての課題
記事の冒頭で、「NDBオープンデータ」は、性別や年齢、地域による差異をわかりやすく示すことを目的としていることを述べたが、利活用にあたって課題もある。
たとえば、地域別データは医療機関の所在地ベースであって、患者の住所地ベースではない。そのため、二次医療圏や都道府県をまたいだ受診について、流出入が補正できない。また、地域ごとの比較をするには性別や年齢で補正することが望ましいが、そのような処理はされていない。※2
データそのものの正確性についても課題が残る。たとえば、レセプトの性格上、「レセプト病名」が実際の病名と異なる可能性があるため、病名ごとの件数は開示されていない。医療行為の実施件数は公開されているものの、いわゆる実患者数は名寄せの負担が大きいこともあり、不明のままであることなども挙がろう。
医療機関にとっては、さまざまな限界を理解しつつも、マーケティング等を目的としたデータの利活用については、引き続き検討が必要だろう。(『CLINIC ばんぶう』2021年4月号)
※2:この補正が行われているのが以前この連載で紹介した性・年齢調整標準化レセプト出現比(SMR)
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務