デジタルヘルスの今と可能性
第39回
2030年までに起こりえる医療の変化とは?

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、「デジタルヘルスへ向けた準備段階」である今年から、2030年までに起こり得る医療界の変化について考える。

30年に向けた医療界の3つの変化の可能性

前回、2021年は、「オンライン診療をはじめとするデジタルヘルスの基盤づくり」の年であるという話をさせてもらった。現在、新型コロナウイルス感染症による特例措置がとられ、初診・再診両方でどのような疾患についても、オンライン診療での対応が可能になっているが、これは読んで字のごとく、「時限的なもの」であり、終わりが来る。

こうしたオンライン診療の今後の方向性の取りまとめに関しては今年6月に、さらに、オンライン診療の適切な実施に関する指針の改定は、今秋に予定されている。
また、19年次の指針改定で、いわゆる「DtoP with D」が盛り込まれ、20年度診療報酬改定で「遠隔連携診療料」(500点)が新設されたように、今年のオンライン診療関連の取りまとめを受けて22年度診療報酬改定で何かあるのを期待するということだ。

このような流れを踏まえ、今回は今後の医療機関の変化について少し想像してみたいと思う。
まず、20年から30年に向けて変化していくなかで、医療全体として大きく3つの方向性が考えられると予想する。

①治療から予防へ

これは、どこでもよく言われていることではあるが、健康者に対して病気の原因と思われる要素を避けるように努めて健康増進を図り、病気の発生を防ぐ「一次予防」だけではなく、すでに病気になった人をできるだけ早く発見し早期治療で重症化を防ぐ「二次予防」や、病気が進行した後の後遺症治療や再発防止、リハビリテーションなどの対策を立てて実行する「三次予防」の動きも盛んになると思われる。

②セルフケアの推進

これに関しては、21年3月から始まる「オンライン資格確認」により、健康保険証とマイナンバーカードが紐づくことで、自分の健康情報を患者自身が確認できるP H R(Personal Health Record)の仕組みがいよいよ進み出すだろう。まず、21年4月特定健診のデータ、10月からは医療機関で発行された処方箋情報が「マイナポータル」という専用サイト確認できるようになる。

すでに専用PHRシステムを提供している民間業者にもデータ連携することが可能なため、多くの人が自分の健康状態を見ることになり、健康意識の向上につながると考えられている。これにより、自分で医療情報を調べたり、不明点に関しては医師をはじめ医療の専門職に遠隔健康医療相談として聞きながら自己決定ができるようになる。

セルフケアの医薬品に関しても、従来まではOTC医薬品の活用が主流だったが、近年は「零売薬局」の活用も進み始めている。「零売」とは、医薬品のうち医師からの処方箋なしでも購入できる「非処方箋医薬品」を、処方箋なして顧客が必要な分量、薬局で販売することだ。現在、医療機関で処方される1万5000種類もの医療用医薬品のなかで、「非処方用医薬品」は約半分を占めており、具体的には、▽アレルギー薬、▽胃腸薬、▽痛み止め、▽風邪薬、▽ステロイド薬、▽漢方薬、▽ビタミン薬――などが挙げられる。
今まではOTC医薬品のなかでしか選べなかったが、今後零売薬局を活用することで、医療用医薬品からも患者自身がセルフケアの薬の活用ができる。

また、2月9日の厚生労働省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で発表された中間とりまとめでは、これまで「スイッチOTC」に関する可否の決定を行っていた評価検討会議について、今後は課題・論点の抽出と検討のみにとどまり、可否の検討は行わないものとした。これは、規制改革実施計画による「スイッチOTC化の拡大のための会議の見直し」を発端としたもので、ここから必ず医療用医薬品からOTC医薬品への拡大が考えられるとされている。

③医療との接点のオンライン化

ここからが、前回から今回の冒頭にかけて取り上げた、初診時からのオンライン診療などに関するトピックスである。正直なところ、現時点で22年度診療報酬改定がどうなるのか、誰にもわからない。厚生労働省の担当官であってもそうだろう。

しかし、30年までの残り9年間を考えると、テクノロジーのさらなる発展、5Gの利用拡大などは必ず行われるはずのため、現状持ち出されがちな「対面診療に比べオンライン診療は診療の質が低い」といった論点は、9年間のどこかで解消されると予想している。そうなったとき、患者は医療との初めての接点をオンラインに求める時代に変わっていくはずだ。

これはすなわち、「駅から近い」「職場から近い」「家から近い」などのアクセスの要因によって医療機関が選ばれる時代が終わりを迎えることとなる。もちろん、医療とのファーストコンタクトを対面で求めるニーズは完全に消えることはないが、今よりも割合として減っていくことは明らかだ。そして代わりに、初めての接点はオンラインという人の割合が増えていく。その場合、患者に選ばれる医療機関とは、「専門性」を持っているところか、「医師の人となり(キャラクター)」が好かれたところであると考える。

専門性特化ではない道を選択した場合、「選ばれる」医療機関・医師になるための積極的な情報発信が求められるだろう。特に医療情報の発信は、他と差別化が図れないため、「医師の人となり(キャラクター)」が大事になると考える。医療機関のあり方が、ここ数年で大きく変わっていくのではないかと予想している。(『CLINIC ばんぶう』2021年3月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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