DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
「人生100年時代」における介護の未来を考える④

外部環境の変化にどう対応していくか

新型コロナウイルスの感染拡大はとどまることを知らず、各地でクラスターが発生している。「人生100年時代」と言われるなかで、ウィズコロナ時代の地域包括ケアシステムの再定義をすることは、今後の診療所の事業展開を考えるうえで役に立つこともあるだろう。
4回目となる本稿では「人生100年時代における介護」を見据えて、事業者の戦略を考える。

事業戦略を考えるうえでは、①科学的介護データベースの構築、②技術イノベーションの導入(介護口ボット・センサー・Al・loT)、⑧事業者の統合再編・ネットワーク化の推進―といった、外部環境の変化に、どのように適応していくかがポイントになる。

技術イノベーションにより生産性を引き上げることが急務

事業者が、利用者のニーズに応じた質の高いサービスを効率的に提供していくためには、技術イノベーションの導入が欠かせない。その背景には、介護サービスの質向上だけでなく、介護人材不足の補完や介護保険給付費の抑制の必要性が根底にある。特に、介護人材不足については深刻だ。

労働人口減少に伴い求人倍率は全産業で上昇しており、相対的に給与が低い介護事業は敬遠される傾向にある。外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法が成立し、介護分野で今後5年間に6万人を上限に特定技能実習生として受け入れを進め、介護施設等で身体介護を中心に業務に従事することが期待されているが、急激な経済発展を遂げる新興国から安定的に人材を確保することは容易ではないだろう。

量的な効率化の視点だけでなく、質の向上の視点も重要だ。図1に示すように、業務改善活動を通じて、ケアに直接関連する業務時間割合の増加や内容の充実を図っていく視点も重要だ。また、元気な高齢者に介護現場で働いてもらうことを促す取組みも始まっているが、要介護者の増加スピードを考えると、サービスの自動化等による生産性向上が欠かせない。

厚生労働省は2040年までに、福祉サービスの生産性を5%向上させるとしているが、それでは人材不足は解消しない。また、直接ケアに携わるスタッフだけでなく、管理職も含めた人材不足に対応できる、海外に輸出できるような、先進的介護サービスをつくっていくには、20%以上の生産性向上を目標にして知恵を絞っていくべきだ、と筆者は考えている。

ロボット・IoTの導入には事業規模拡大で投資余力の確保を

18年度の介護報酬改定では、見守り機器を設置した際の夜間職員配置の緩和が行われた。行政としてもこうした技術の普及には積極的であり、行政的な支援も拡大するとみられる。たとえば介護ロボットについては、「ロボット介護機器開発5カ年計画」で、重点開発支援分野として、移乗介助、移動支援、排泄支援、認知症見守り、入浴支援が指定をされている。加えて、コミュニケーションロボット、食事介助ロボット、清掃ロボット等も開発をされている。

介護におけるIoTの開発や普及の推進も必要だ。たとえば、タブレット端末を用いたケア記録、クラウドを利用した事業者間の情報共有、離床やバイタルサインをモニタリングするセンサー等が実用化されており、今後、より統合的なシステムの開発が期待されている。

技術イノベーションの普及には事業者側の課題も多い。介護事業者は小規模な所が多く、投資余力が限定的である点や現場スタッフのITリテラシーが他の産業に比べて低いという点が指摘されている。これらの観点からも、事業者の統合再編・ネットワーク化によって、ロボットやIoT等への投資余力を確保するとともに、IT専門スタッフを内部に確保するといった事業者側の組織力の強化が必須となるだろう。

本人・家族・社会の価値観の変化に柔軟に寄り添う

事業者が留意しておくべき点として、もう1点指摘しておきたいのは、たとえば、認知症の終末期に代表されるような方々への栄養療法(胃ろうや中心静脈からの栄養)や、介護者による食事介助等のケアが今後どこまで続けられるかという点である。

実際、認知症終末期の方々に対する胃ろうの適応は延命治療の1つとして社会問題となってきた。図2に示すように、11年から17年にかけて、胃ろうの造設件数が半減したというデータもある。食べられなくなったらあきらめるという価値観が、本人、家族、介護事業者の間で共有された場合、重度の要介護者が大きく減少する可能性を有しており、その場合、重度の要介護者を多く抱えている介護事業者にとって、事業リスクとなり得る。

こうした介護需要の急激な変化は、時代の変化に応じたあるべき介護サービスを追求していく取り組みであり、事業者は、介護に対する本人家族や社会の価値観の変化に柔軟に寄り添っていく姿勢が重要であろう。

「人生100年時代」においては、地域に生きる一人ひとりが尊重され、人々が多様な就労・社会参加の機会を得ながら、「縦割り」や「支え手」「受け手」という関係を超えて、個人の暮らしと生きがい、地域をともにつくっていく「地域共生社会」の実現、という視点が必要になる。医療・介護事業者も、このような「社会システム」の担い手であることを忘れずに、新しいケアシステムの構築に貢献していくことが肝要と思われる。

これまで4回にわたり、「人生100年時代における介護の未来を考える」と題して、「人生100年時代」とは何か、解説したうえで、介護を取り巻く環境の変化について概説してきた。
この連載が、今後の介護の動向を踏まえた事業戦略を考えるうえで、読者の皆様に少しでも参考になれば望外の喜びである。(『CLINIC ばんぶう』2021年2月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務