デジタルヘルスの今と可能性
第37回
2021年は、新時代に乗り遅れないための準備期間

「デジタルヘルス」の動向を考えずに今後の地域医療は見通せない。本企画ではデジタルヘルスの今と今後の可能性を考える。今回は、2021年を迎え、20年の新型コロナウイルス感染症が、デジタルヘルスや日本におけるDXに与えた影響について振り返る。

新型コロナがもたらした「2つのR」とは

あけましておめでとうございます。2021年になり、先生方は今年をどのような年にされたいだろうか。

20年は、現在も続く新型コロナウイルス感染症抜きには語れない年だったと思う。新型コロナの対応として、ビジネスの世界では対面の会議ではなくWEB会議システム「Zoom」などを活用したオンライン会議の導入が多くの企業で進んだ。そして、そうした会議は社外の取引先等との会議だけではなく、もちろん社内の会議にも当てはまるため、会議のために対面する必要がなく、在宅でも仕事をしていられるということになっている。つまり、リモートワークの普及だ。また、リモート会議やリモートワークで良いなら、都会に住んで毎日満員電車に揺られて通勤する必要もないということで、都心から少し離れた暮らしやすいエリアに引っ越し、リモートライフを選択した人や家族もいる。このように、リモートワーク(Remote work)&リモートライフ(Remote life)が生活を変えた、「2つのRの令和2年」というわけだ。

政府の動きとしては、20年9月16日に新しく菅内閣が発足。デジタル化・オンライン化の推進をしていくことが臨時国会開会の所信演説で述べられた。このデジタル化・オンライン化の推進、医療領域においては、「オンライン診療」が具体例として挙げられていた。
厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」の11月2日ならびに13日の会合では、件の初診恒久化も含めたオンライン診療の方向性を12月中に示すという発言があった。

本稿を執筆している12月9日時点では、まだ明確な方向性は示されていなかったが、年末の間までに何らかの方向性が示されたのではないだろうか。このトピックに関しては、いろいろと情報が出てきている時期であろう次回の連載でお届けする。

ビフォーコロナの価値観にはもう戻ることはない

引き続き、21年という年に対して、私がどのように考えているのかについて、話していこうと思う。

まず、私としては日本における医療のデジタル化の本番は、2022年だと考えている。先述のとおり、新型コロナで大きく社会は変わった。個人それぞれが感染予防の一環として常にマスクを着用するようになり、それが長期間続いたため、今では当たり前の日常風景となった。

また、接触を極力避けるようになり、ノンコンタクトのやり取りが増えてきた。それはたとえば、小売店などで無人のセルフレジが増えたり、飲食店で店員を介さずタブレット等で注文したり、そもそも店に行くことなくネットスーパーで買い物を済ませたり、出前やUberEatsで食事を届けてもらったりといった生活だ。そして、Amazonなどでも、宅配員と対面することなく、玄関前に商品を置いてもらう、「置き配」をしてもらうことも増えてきた。

読者の先生方のなかで、「新型コロナが終わったら元の生活に戻る」と思われている人は何人おられるだろうか。いわゆる、「ビフォーコロナ」だが、自分はもう二度と、「ビフォーコロナのときには戻らない」と感じている。
なぜかと言えば、20年4~6月ごろを思い出していただきたい。4月に緊急事態宣言が発令され、外出を自粛しオンラインでの生活を余儀なくされていた。そして、解除後の8~10月は少し、ビフォーコロナな雰囲気に戻っていたが、実はこれが、最後のビフォーコロナだったと思っている。

私見として、いわゆるビフォーコロナな状態、マスクを着用しなくなり、また集団で対面し飲み会に行くといったような風景は、新型コロナのワクチンが日本全体に普及したときに一定数復活するかもとは思うが、私が考えているのは、そうした状態や風景の話ではない。私が言う「ビフォーコロナには戻らない」というのは、「新型コロナを経験する前の時代の価値観」に戻ることはまったくないということだ。

一度でも快適なリモートワークやリモートライフを送って、普通に仕事や生活が成り立っていた人が、もう一度満員電車に揺られて都心にわざわざ通勤する生活に戻れるわけがない。仮に会社都合でビフォーコロナ的勤務形態を強要したら、退職者も少なからず出てくるのではないだろうか。

21年は新しい時代へ向けた地盤固めの年になる

つまり、21年は、新型コロナの動向次第で風景はビフォーコロナ時代に戻るかもしれないが、”人々の価値観は決して戻らない”ということに、「気づいた人」と「気づいていない人」で大きく二極化する年ではないだろうかと思っている。
そして、診療所界隈においても、「気づいた」かつ、前回も書かせてもらった「オンラインを使ったほうがよりよい医療を提供できる患者さんを診療していこう」と思っている院長がいれば、ここは変化をしなくてはならない年だ。

言ってみれば、21年は22年から始まるだろう新しい時代に向けた準備期間、地盤固めの年なのだ。22年になったら、「もうニューノーマルになったんだな」と誰でもわかるはずである。そのときに変化するのではなく、少しずつ準備を進めていくと考え、先行きにまだ不安のくすぶる21年を精力的に過ごすのはいかがだろうか。
私自身も、その先の2030年を見据えた新しい時代の変化に人でも多くの先生方に気づいてもらえればと思いながら、今年も本連載を書いていこうと思う。(『CLINIC ばんぶう』2021年1月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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