DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
「需要」と「供給」の両面から介護の未来を考える

介護予防の推進により要介護者は減少に向かう

新型コロナウイルスの感染拡大はとどまることを知らず、各地でクラスターが発生している。「人生100年時代」と言われるなかで、ウィズコロナ時代の地域包括ケアシステムの再定義をすることは、今後の診療所の事業展開を考えるうえで役に立つこともあるだろう。3回目となる本稿では「人生100年時代における介護」について、介護ニーズという「需要」と介護事業という「供給」の観点を中心に論じる。

介護ニーズについては、政府が目指している「誰もがより長く元気に活躍できる社会」が実現できれば、要介護者は減少に向かうだろう。厚生労働省は、健康寿命を2040年までに75歳まで伸長することを目標としているし、元気な高齢者が就労を含む社会参加を進める取り組みや介護予防・認知症予防、寝たきりのリスクが高い人に対する早期介入等、要介護者の減少を促す取り組みが進められている。

加えて、人生の最終段階における医療・ケアのあり方の変化も介護ニーズに大きく影響を与えるだろう。12年の内閣府の調査によれば、高齢者の延命治療の希望について、65歳以上で少しでも延命できるよう、あらゆる医療をしてほしいと回答した人の割合は4.7%と少なく、一方で延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしいと回答した人の割合は91.1%と9割を超えた。

普及が望まれる人生の最終段階の医療・ケアガイドライン

厚生労働省は、人生の最終段階を迎えた本人や家族と医療・ケアチームが、最善の医療・ケアをつくり上げるための合意形成のプロセスを示すものとして、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を策定している。

同ガイドラインは、人生の最終段階における医療・ケアについて、医療従事者から適切な情報提供と説明がなされたうえで、本人と医療・ケアチームの合意形成に向けた十分な話し合いを踏まえた本人による意思決定を基本として、多職種から構成される医療・ケアチームとして方針決定を行うことが重要であるとしている。

一方、同ガイドラインで示された方向性は必ずしも普及していない。日本医療政策機構が18年に行った調査によれば、同ガイドラインを知っている人は10.8%にとどまっていた(図1)。また、人生の最終段階においてどのような医療を受けたいかという点について、回答者の66.4%は、身近な人と話し合いたいと考えているが、実際に話し合ったことのある人は125・4%にとどまっていた(図2)。

40年には「人生会議」が普及するか

「人生100年時代」においては、同ガイドラインが周知され、人生の最終段階において、本人が望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと話し合い、共有する「人生会議」が普及しているだろう。

本人が望まない延命措置が減り、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができる社会がすぐそこまできている。

人生100年時代を支える事業戦略の3つのポイント

次に、事業者(供給側)の視点から「人生100年時代」の介護の未来を考えてみよう。「人生100年時代」介護サービスは、①科学的介護データベースの構築と利活用、②技術イノベーションの導入(介護ロボット・センサー・AI・IoT)、③事業者の統合再編・ネットワーク化――が進むことで、介護サービスが、エビデンスに基づき、質が高く効率的に利用者のニーズに応じて提供されるようになると考えられる。

まず①については、すでに介護保険総合データベース、通所・訪問リハビリテーションデータ(通称VISIT)が稼働しており、さらに20年からは「介入(どのようなケアを提供したか)」「利用者の状態」に関する新たなデータベース(通称CHASE)が稼働している。

「●●状態の要介護者に○○ケアを提供すれば、◎◎という効果が得られる」という根拠に基づく介護サービスが確立されれば、自立支援に資する効果的なサービスの提供や介護現場の負担軽減(効率化)が実現できると期待されているが、課題も多い。データの収集は現場の負担となるからだ。

今後は、モデル事業等を通じて、データ項目の絞り込みやデータ入力の省力化等を進めていく必要があるだろう。データが収集できれば、介護サービスの質が可視化されることで、自施設での経年比較や他施設とのベンチマークが可能となる。質の向上に対する保険者からのインセンティブも今後検討されていくだろう。すでに18年介護報酬改定において、通所介護事業所について自立支援・重度化防止の観点から、ADL(日常生活動作)の維持または改善の度合いが一定の水準を超えた場合に評価する加算が新設されている。今後、このような評価が広がる可能性が高い。

次回は、引き続き、「人生100年時代」を支える事業戦略について取り上げる。(『CLINIC ばんぶう』2021年1月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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