デジタルヘルスの今と可能性
第35回
新内閣発足から1カ月でデジタルヘルスの動向も急展開

9月16日、菅内閣が発足して早1カ月経つが、その間にデジタルヘルスの話題も目まぐるしく変わっている。今回は、特にオンライン診療や遠隔健康医療相談について注目のトピックについて、話していく。

オンライン健康相談の定義等の新たな提案

この連載も第35回となる。そんな今回、最初に話していきたいのは、10月7日に日本医師会から出された、オンライン健康相談」を適切に実施するための4施策の提案にについてだ。内容としては、次のとおりである。

①国としての定義の明確化
②省庁横断的な指針の作成
③業界ガイドラインの作成
④利用者リテラシーの向上

まず①の定義に関しては、現在明確な定義がないためである。オンラインで医療行為でない相談をするときに、厚生労働省からは「遠隔健康医療相談」、経済産業省からは「(医師等による)遠隔健康相談」という名称が使われているのが現状だ。
厚労省の指針では相談が医療行為でないにもかかわらず遠隔健康医療相談という「医療」という言葉が入っているため、これの見直しが求められている。そして、見直し案として日本医師会は、オンラインで行う健康相談をまず大きく2つに分類することを提案している。具体的には、医師が行う健康相談を「オンライン健康相談」、医師以外が行う相談業務を「オンライン生活相談」などという名称とするというものだ。
さらに、「オンライン生活相談」は、薬剤師が薬の相談を行う「オンラインお薬相談」、看護師や保健師・助産師が出産や育児に関しての相談を行う「オンライン出産・育児相談」、そして、管理栄養士や栄養士が栄養に関する相談を行う「オンライン栄養相談」などが提案された。

次に、②の指針作成に関しては、厚労省や経産省だけではなく、医療関係者や患者団体などの参画のうえで作成し、また、将来的にはAI健康相談へのシフトまで見据えた指針としての作成を求められているものだ。そのほか、③、④に関しても、関係各所との協働のもと、具体的な内容が精査されていくことだろう。

そして、このオンライン健康相談への提案で一番今後の動向が気になるのが、「かかりつけ医」に対するオンライン健康相談の診療報酬化である。
現在通院中の患者への診療行為の一環として行うオンライン健康医療相談に対し、診療報酬の評価が求められているのだ。自分の理解だと、診療報酬のなかで管理料や指導料と言われるものは、現在通院中の患者からの相談対応も含まれていると思っていた。それを改めて診療報酬算定へと日本医師会が提案していることについて、2022年度診療報酬にどのように影響するのか、今後も目が離せないトピックだ。

オンライン初診恒久化で診療所への浸透の行方は

2つ目のニュースも衝撃的で、「初診でのオンライン診療が恒久化」というものだ。10月9日の報道発表で、規制改革担当の河野太郎内閣府特命担当大臣、田村憲久厚生労働大臣、デジタル担当の平井卓也内閣府特命担当大臣の3者の会談が持たれた後、河野大臣からオンライン診療を初診も含めて原則解禁することを3者間で合意したと発表があった。
まだ、現時点(10月10日時点)では、もちろん通知や事務連絡は出ていない。この発表後、田村大臣も10月9日の閣議後会見で、「安全性と信頼性をベースに初診からオンライン診療を原則解禁する」「オンライン診療は電話ではなく映像があることを原則とする」という発言をされている。

4月10日の事務連絡で時限措置として行われるようになった通信機器による診療は、それまでのTV電話診療だけでなく電話診療も含めたものだった。そして現在TV電話診療と電話診療の両方を含めたオンライン診療を行う医療機関は全国で約1万7000施設になっている。4~6月に行われたTV電話診療と電話診療での初診の実施数を見てみると、電話診療がTV電話診療の約2倍である。1万7000件の医療施設のなかには、電話診療だけを行っているところも多く含まれていると思われるため、今後、多くの診療所でTV電話診療の導入が進んでいくのではないかと考えられる。

また、この田村大臣の発言で注目されるのが、「対象となる病気は3大臣で詰めていきたい」という発言である。オンライン初診で、どのように「対象となる病気」が決められていくのか、現実的に考えると難しいようにも思われる。
そして、この「初診でのオンライン診療が恒久化」に関する通知もしくは事務連絡は、現在厚労省の医政局医事課が主導して開催している「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」で具体的には話される様子だ。
指針の検討会では医師の資格と本人確認に「HPKIカード(医師資格証)」を利用するかどうかといった話も話題として出される予定で、よりこの検討会の注目度が上がってきている。

本当に時代が変わる2020年であり、今後も年末まで目が離せないだろう。(『CLINIC ばんぶう』2020年11月号)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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