DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
「人生100年時代」
介護の未来を考える②

厚生労働省が示した2040年の展望

2019年10月の消費税率の引き上げにより、団塊の世代が75歳となる25年を念頭に進められてきた社会保障・税一体改革は完結。その後、厚生労働省は団塊ジュニア世代が高齢者となる40年を見据え、「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」を設置し、誰もがより長く元気に活躍できる社会に向けた検討を行ってきた。具体的な検討項目は、

①多様な就労・社会参加の環境整備、②健康寿命の延伸、③医療・福祉サービスの改革による生産性の向上、④給付と負担の見直し等による社会保障の持続可能性の確保――の4つで19年5月、議論のとりまとめが公表された(図1)。

健康寿命の延伸を通じた高齢者の就労・社会参加の推進

元気な高齢者が就業機会を得るには、「健康寿命の延伸」が前提条件となる。とりまとめでは、健康寿命を40年までに男女とも75歳以上を目指すとしている。すでに世界有数の健康長寿を実現している状況で、さらなる健康寿命の延伸を図るために、これまでの取り組みのさらなる推進に加え、健康無関心層も含めた人が自然に健康になれる環境づくり(健康な食事や運動ができる環境、社会参加を促す仕掛け)、行動変容を促す仕掛け(行動経済学の応用)など、新たな手法も活用する方針だ。

また、高齢者の健康寿命の延伸を進めるには、介護予防や認知症予防も重要になる。そのための施策として、以下の取り組みを挙げている(カッコ内は政策目標)

●「通いの場」のさらなる拡充(20年度末までに参加率6%)
●高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施(24年度までに全市区町村で展開)
●介護報酬上のインセンティブ措置の強化(20年度中に結論)
●健康支援型配食サービスの推進(22年度までに25%の市区町村で展開)
●「共生」・「予地域医療防」を柱とした認知症施策
●認知症対策のための官民連携実証事業

医療・福祉サービスを改革し生産性を向上させる

生産性の向上に関しては、①ロボット・AI・ICT等の実用化推進、データヘルス改革、②タスクシフティング、シニア人材の活用推進、③組織マネジメント改革、④経営の大規模化・協働化――の4つを通じて、40年時点における医療・福祉分野の単位時間サービス提供量の5%以上の改善を目指す方針。
介護関連の施策としては、次の項目を着々と進めている(カッコ内は政策目標)

●データヘルス改革
・AI開発と現場での利活用
・ICT導入の推進、ICTを活用した医療・介護の情報連携に向けた検討
・介護保険総合データベースの連結解析や公益的な利活用の促進

●①業務仕分け、②元気高齢者の活躍、③ロボット・センサー・ICTの活用、④介護業界のイメージ改善を行うパイロット事業を実施(20年度から全国に普及・展開)

●シニア人材の活用推進(21年度までに介護施設等とのマッチング者数を15%増加)

●介護分野の生産性向上ガイドラインの作成・普及・改善(優良事例の全国展開)

●現場の効率化に向けた工夫を促す報酬制度への見直し(次期報酬改定に向けて検討)

●文書量削減に向けた取組(20年代初頭までに介護の文書量を半減)

人生100年時代の介護

厚生労働省は、健康寿命75歳を目標に、元気な高齢者が就労を含む社会参加や介護・認知症予防、寝たきりのリスクが高い人への早期介入など、要介護者の減少を促す取り組みを進めている。
また、人生の最終段階における医療・ケアのあり方の変化も介護ニーズに大きく影響を与える。12年の内閣府の調査によれば、高齢者の延命治療の希望について、65歳以上で「少しでも延命できるよう、あらゆる医療をしてほしい」と回答した人の割合は4.7%、一方で延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしいと回答した人は91.1%だった。

この人生の最終段階を迎えた本人や家族と医療・ケアチームが、最善の医療・ケアをつくり上げるための合意形成のプロセスを示すものとして「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」がある。しかし、同ガイドラインで示された方向性は必ずしも普及していない。日本医療政策機構が1986年に行った調査によれば、同ガイドラインを知っている人は10・8%(図2)。また、人生の最終段階においてどのような医療を受けたいかという点について回答者の66.4%は身近な人と話し合いたいと考えているが、実際に話し合ったことのある人は25.4%にとどまっていた(図3)。

「人生100年時代」においては、同ガイドラインが周知され、「人生会議」が普及しているだろう。本人が望まない延命措置が減り、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができる社会がすぐそこまで来ている。(『CLINIC ばんぶう』2020年12月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務