DATAで読み解く今後の方向性 地域医療・介護向上委員会【特別編】
「人生100年時代」
介護の未来を考える

介護需要は今後も拡大

今冬は新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行が懸念されており、感染による死亡リスクの高い要介護者のケアを行う介護事業者は、戦々恐々としている。

「人生100年時代」と言われるなかで、地域包括ケアシステムを取り巻く環境は、今後どうなっていくのか。これについて考えることは、将来的な事業展開に役立つはずだ。政策動向や実際のデータを紹介しながら検討する。

高齢者人口、とりわけ75歳以上の後期高齢者人口は、2050年ごろまで増加する見込みだ。独居高齢者も増えているため、医療・介護はもちろん、高齢者施設・住宅の需要も拡大すると考える。

大都市圏では、高齢者、要介護者の急増が見込まれる一方で、地方ではすでに高齢者が減少している地域も存在する。また、生産年齢人口の急激な減少に伴い、介護職員の不足が顕在化しており、介護事業者の成長戦略に大きな影響を与え始めている。
介護サービス提供体制の維持が困難になる可能性もあるため、厚生労働省などによって、介護ロボット・ICT活用、介護職員の処遇改善、外国人介護人材の受け入れなどが検討されているところだ。

介護保険サービスは、保険給付費だけで11兆円を超えている。いわゆる介護保険3施設(介護医療院・老健・特養)が最も多く、そのほか特定施設、通所介護、地域密着型サービス、訪問介護などで構成されている。介護事業者の主な収入源は、介護保険サービスだが、サービス類型によって、費用構造や事業リスクは異なる。

他方で、就労支援、旅行・外出支援、介護予防・リハビリ、買い物代行、配食・給食、見守り、看取りなどの保険外サービスは、介護報酬の引下げなど、制度リスクを低減する観点から注目されているが、その収益化は容易ではないというのが実情だ。

「人生100年時代」とは

「人生100年時代」とは、ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットンらが『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」(東洋経済新報社)のなかで提唱した言葉である。
リンダらは、世界中で寿命伸長が急激に進み、先進国では07年生まれの2人に1人が100歳を超える「人生100年時代」が到来すると予測し、これまでと異なる新しい人生設計の必要性を説いている。日本では、本の発売と同時期に小泉進次郎氏が使用したことで広く浸透した。

17年9月、安倍晋三首相を議長とする「人生100年時代構想会議」
が設置され、18年6月に「人づくり革命基本構想」が発表されるなど、政策への反映も進められている。
日本はすでに世界一の長寿社会を迎えているが、「人生100年時代」において人生はさらに長く、健康である期間も伸長する。人々は、「教育・仕事・老後」という3つのステージの単線型の人生ではなく、マルチステージの人生を送るようになり、「人生の再設計」が求められている。

たとえば、65歳で退職するとして、100歳までの35年間を「老後」として、TVの前で過ごすにはあまりにも長い。100年という長い期間を充実したものにするには、生涯にわたる学習が重要になってる。また、スポーツや文化芸術活動、地域コミュニティー活動などに積極的にかかわっていくことも、個人の人生や社会を豊かにする。

年金だけでは足りない?

65歳までに働いて貯めたお金で100歳まで生きることはできるか。
50代以下の世代で、老後に対する不安要因で最も多いのは「お金」だ(表1)。

少し前の話だが、19年6月、金融庁の金融審議会が提出した報告書「高齢社会における資産形成・管理」の受取りを麻生太郎金融担当が拒否したことが、世間をにぎわせた。
同報告書では、高齢夫婦の無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の生活費は年金だけでは足りず、今後30年生きると、2000万円ほど不足するとの試算を行っていた。

■高齢夫婦無職世帯の毎月の収支イメージ
◦収入: 20 万9198円
◦支出:26万3718円(うち消費支出23万5477円)
◦差額:5万4520円(不足額)

毎月の不足額が約5万5000円、30年なら約2000万円との試算だ。老後の費用は、住宅ローンが完済しているか、介護が必要になるかなどによっても大きく変わるが、同報告書が話題になったことで、国民の資産形成に対する関心は高まった。

なお、先ほど紹介した「先進国の07年生まれの2人に1人が100歳を超えて生きる」というリンダ・グラットンらの推計は、あくまで「07年生まれ」の人の推計であり、現在65歳(高齢者)となった人ではないことに注意が必要だ。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、15年に60歳の人が100歳まで生きる確率は、8.8%とされており、リンダ・グラットンらの推計に比べると、かなり低い(表2)。

また、厚生労働省は、40年までに健康寿命を75 歳まで伸長することを政策の目標としているが、リンダ・グラットンらの推計はこの値とも乖離しており、現時点で少なくとも40年において2人に1人という頻度で100歳を超えて生きることが想定されているわけではない点に留意を要する。(『CLINIC ばんぶう』2020年11月号)

石川雅俊
筑波大学医学医療系客員准教授
いしかわ・まさとし●2005年、筑波大学医学専門学群、初期臨床研修を経て08年、KPMGヘルスケアジャパンに参画。12年、同社マネージャー。14年4月より国際医療福祉大学准教授、16年4月から18年3月まで厚生労働省勤務

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