デジタルヘルスの今と可能性
第34回
Apple Watchで医療が日常に広がる時代が始まる

9月4日、「AppleWatch」の心電図機能アプリがプログラム医療機器としての承認が下りた。こうした日常的に使われつつあるデバイスにおける医療機器の承認は、「医療が日常との接点を持つ」という意味で新たな視点を与えてくれるだろう。今回はこのトピックを詳しく掘り下げていく。

「Apple Watch」の心電図機能アプリを承認

今回は、読者のなかにも愛用者がいるだろう「Apple Watch」について、心電図機能のアプリが9月4日プログラム医療機器としての承認が下りたというニュースを取り上げようと思う。

はじめに、このニュースについてそもそも全容をご存じないという人もいると思われるため、改めて説明する。「Apple Watch」では、「Apple Watch Series4」から、心電図(ECG)機能が搭載されており、アメリカでは2018年からECGアプリとして活用されている。
しかし、日本では「心電図機能」「脈の不整を通知する機能」が医療機器に該当するため、「Apple Watch Series4」のハードウェア自体は同じ製品か発売されているが、ECGアプリは提供されず、「Apple Watch」による「心電図機能」や「脈の不整を通知する機能」は使えない状況だった。

それが20年5月になって、Apple社が「医療機器外国製造業者認定」を取得。さらに、20年7月には厚生労働省から「家庭用心電計プログラム」「家庭用心拍数モニタプログラム」といった、「Apple watch」のECGアプリに関連しそうな医療機器の一般的名称が新設されたことにより、Apple社がプログラム医療機器として承認申請をしているということがわかっていた。
そして、晴れて9月4日、「Apple Watch」のブログラム医療機器の承認が下りたというわけだ。製品販売名は、次のようなものである。

Appleの心電図アプリケーション(※1)
Appleの不規則な心拍の通知プログラム(※2)

「非医療機器」の端末で一医療機器アプリを利用可能に

次に、今回のAppleのプログラム医療機器の特徴的な点を3つ紹介していこう。

まず1つ目は、非医療機器のデータを活用して、予防・診断・治療を示すプログラムで医療機器となっているということだ。
もともとブログラム医療機器は、14年11月の薬機法の改正で創設された新たなカテゴリだが、その該当性として今まで通知が出されている。その通知でプログラム医療機器の該当性の項目が公開され、そのなかの一つが簡単に言うと、「医療機器のデータを加工して予防・診断・治療に活用するものは医療機器」というものであった。

これは、「医療機器のデータ」→「医療機器」という形であって、今回特徴的なのは、「Apple Watch」という「非医療機器」のデータから、「医療機器」となるものが示されたということだ。
これにより、今後この事例を先行事例として、非医療機器のデータ(ヘルスケアデバイスのデータ)を活用して予防・診断・治療に活用するものが増えていくのではないかと考えられる。

医療機関外の日常を助ける「家庭用」医療機器への期待

2つ目は、1つ目とも関連するが、「家庭用」という枕詞がついたということである。
厚労省が新設した一般的名称である「家庭用心電計プログラム」「家庭用心拍数モニタプログラム」のいずれにおいても、その定義の説明として、「汎用機器から得られた情報を用いて」という文章から始まっている。

この「家庭用」医療機器は、目的として、「医療機関外の日常で、その医療機器を活用することで生活者が『疾患などに気づくこと』」を意図してつくられている。つまり、決して「Apple Watch」を医療機関内での診断などを目的として活用するためのものとしては考えられていない。
今後、このように「家庭用」で生活者に対し疾患への気づきをもたらすことを目的とする医療機器が増えていくものと考えられる。

「非医療機器」のデータを活用した予防等への可能性

そして、3つ目は、あくまでも医療機器となっているのは「アプリ」だけということだ。
今まで「Apple Watch」は普通にAppleの路面店や家電量販店で販売されていた。そして、今回医療機器として承認されたのは、その販売されている「Apple Watch」にインストールされたアプリの一つである。わかりやすく言うと、医療機器でない端末(「Apple Watch」)の中に、医療機器(心電図アプリ)があるということだ。

ただ、これは何も特別なことではない。今回は、対象のハードデバイスが「Apple Watch」のため目新しく感じるかもしれないが、スマートフォンの場合、8月末に承認された株式会社CureAppの「治療アプリ」などは、スマホ(医療機器ではないもの)内のアプリの一つとして、「治療用アプリ」(医療機器)が載っているということでは同様だ。
医療機器ではないものの中に、医療機器があるというのは、たとえば、医療機器ではないスマートスピーカー内のアプリの一つとして診断用アプリが搭載されていたり、医療機器ではないVRシステム内のアプリとして治療に役立つアプリが使えるような世界に、今後つながっていくだろう。

今回の「Apple Watch」におけるECGアプリの医療機器への承認は、「医療が日常に接点を持つ」という視点で見れば、とても新しい一歩であると感じている。
医療機関の外にある生活者の日常に常に医療があり、疾患などの可能性を早期に生活者に気づかせて、そこから専門的な診断や治療は医療機関にお任せしていくというような社会が、だんだんと近づいているのだ。(『CLINIC ばんぶう』2020年10月号)

※1:(承認番号 30200BZI00020000)
※2:(承認番号 30200BZI00021000)

加藤浩晃
(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上

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