デジタルヘルスの今と可能性
第32回
医療AIに関する新工程表から未来の医療の形を読み解く

2019年6月の「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」の取りまとめを受けて、今年6月にAI開発の新しい工程表が厚生労働省から示された。ここから、どんな医療の未来が見えてくるのか、解説する。

医療AI開発・活用に関する新たな工程表が公表

本連載も今号で32回目になる。私自身としては、医師としてはようやく14年目を迎え、アイリス株式会社というAI医療機器ベンチャー企業の展開や、5つの大学での非常勤教員などをするかたわら、オンライン診療や医療AIなどのデジタルヘルス領域を専門に、ヘルスケアビジネス研究会というオンラインサロンをやっている。本連載も含め、今後もさらに精進したい次第である。

さて、直近3号では、新型コロナウイルス感染症とデジタルヘルスの関係、特にオンライン診療の動向に関する話題を3号連続でお届けしたが、今回はガラッと方向性を変えて、AIの今後の進捗の話をしていこうと思う。
というのも、2019年、6月28日に策定された、「保健医療分野AI開発加速コンソーシアムの議論の整理と今後の方向性」を踏まえて、今年6月18日にAI開発の工程表が新たに提示された。今回はその内容をその紹介する。

医療AIの活用に向けた工程表としては、17年6月に示された、「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会の報告書」があった。
この工程表では、17年から21年あたりに向けて、▽ゲノム医療、▽画像診断支援、▽診断・治療支援、▽医薬品開発、▽介護・認知症、▽手術支援──の6領域を重点領域として、期間内でどのようなことをするかを定めていた。

厚生労働省の提示する工程表は、「何となくの目標」ではなく、「必ず現実になる未来」である。自分が厚労省にいたときに強く感じたが、工程表が遅れるということは絶対許されなかった。スケジュールどおりにしっかり進めるために、大学や民間に向けて国の予算からAMED研究費という形で推進のバックアップが行われたりしていた。

この工程表を出した「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」は、18年7月から「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」という会議体に代わり、19年6月に冒頭の取りまとめが行われたというわけだ。
同コンソーシアムでは、主に開発促進の視点から議論が進められている。重点6領域のうち、画像診断支援以外の5領域(ゲノム医療、診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援)において、考慮すべき開発段階や各段階における開発の障壁が何かを検討している。
また、それは先行している画像診断支援領域での障壁と異なるのか、異なるものがあるのかなども議題の一つだった。その結果、障壁の多くは領域を問わず共通する問題であるという結論が出されている。

具体的な開発の障壁は、たとえば、▽倫理委員会、▽インフォームドコンセント、▽(画像の)アノテーション/ラベリング、▽データの転送や標準化・匿名化──といった問題、臨床での検証といったところだろう。
また、市販された後に学習した場合、AIは性能が変化する可能性があるという特性に考慮した、薬事制度の対応が必要だという指摘もなされていた。これに関しては、19年11月に薬機法が改正され盛り込まれた。

さらに、開発促進を中心に議論が進められてきていたが、AIを用いた機器などを医療現場に導入・利活用することにともなう課題についても、今後は議論を開始する必要があるとの指摘もある。当初は開発促進を議論する段階だったが、医療現場でAI医療機器が数例承認され活用さるなど、社会実装が始まりつつあるためだ。
そのほか、保健医療分野の未来技術の開発利活用にかかわる人材育成についても、引き続き検討が必要だと述べられている。

厚労省の提示する工程表は未来の医療の姿

以上の議論などが行われたうえで出されているのが、今回の「保健医療分野AI開発加速コンソーシアムの議論の整理と今後の方向性」におけるAI活用の工程表だ。期間は20年度から23年度ごろまでとなっており、項目としても以前出された6領域に加えて、予防領域としてPHR、さらに、AI開発基盤、審査支払における業務効率化が、追加されている。

AI活用に向けた工程表

以前の工程表との違いについて、領域ごとに説明しておこう。
「ゲノム医療領域」では、22年度まで全ゲノム解析等実行計画に基づき、がん領域難病領域で先行解析を実施して、23年度から本格解析を始めるとされている。前回の工程表では「がんゲノム医療推進コンソーシアムの懇談会を踏まえて対応」となっていた。それに比べるとより具体的な内容になっている。

「画像診断支援領域」は特に変更はない。20年度までに学会を中心とした画像データベース構築を行って、21年度以降に医療機器メーカーへ教師画像データの提供やAIを活用した画像診断支援プログラムの開発を進めていくことになっている。

「診断・治療支援領域」も大きな変更はない。比較的稀な疾患について、AIを活用した診断治療支援を実用化する時期が23年度以降と明確化されたくらいだ。

「医薬品開発」に関しては、以前はなかった21〜22年度までの期間内のデータベース構築が目標とされている。そして、22年度以降に医薬品開発に応用可能なAIを開発して、効率的な医薬品開発の実現が求められている。

「介護・認知症」ならびに「手術支援」においては、今後の取り組みを検討とされ、工程表に新たに具体的なことは書かれていない。
再三言うが、厚労省が出す政策の工程表は、「必ず守られる未来の医療の姿」である。他人事とは考えず、自院の将来を守るうえでの医療の環境変化の参考にしてもらえればと思う。(CLINIC ばんぶう 2020年8月号)

加藤浩晃(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上