実録に学ぶ! 診療所のWEBマーケティング実践記
第2回
なぜその診療所を選ぶのか 患者の受療行動の仕組みを知る

患者の大半がWEBで診療所を検索する時代。WEBマーケティングは、診療所が継続的に取り組むべき重要な戦略の一つだ。 本企画では、実際に取り組む診療所のエピソードから、診療所のWEBマーケティングを学ぶ。

開業前のHP運営で学んだアクセス対策の重要性

今回は開業前の先生方へ向けて、将来的な集患に向けどのようなことができるのか。私の開業前の実情などを紹介しながらお話しします。よりリアルな姿が伝わり、安心していただけるかと思います。

私は最初から開業医を目指していたわけではなく、意図して開業前から集患戦略に取り組んでいたわけではありません。ですが、結果的に集患につながったのが、前回も紹介した趣味で運営していたHP「医者と学ぶ心のサプリ」でした。
「毎回同じことを患者さんに説明しているし、HPをつくったら効率的に診察できるのではないか?」と思い、「ホームページ・ビルダー」※1を買ってきて、2013年2月に開設。徐々に楽しくなってきたのと勉強にもなるので、夢中で記事を書いていました。

ただ、私のHPから着想を得て、当時の職場の先輩に水面下でビジネス展開された結果、WEB上では私のHPが二番煎じにされてしまいました。心血を注いでコンテンツをつくっても、世の中の人に見てもらえないと価値が発揮されないこと、アクセス数を上げるにはさまざまなスキルが必要であることを痛感させられました。

そこで、SEO界隈では有名な「バズ部」※2を読み込んで勉強したほか、CMS※3をワードプレスに変更しHPを育てていった結果、月間100万PVを超えるサイトに成長しました。
ただ、前回も触れた「Welq事件」で16年10月ごろからアクセス数は急降下し、一時期は5万PVまで落ち込みました。

私が開業を決めたのは、ちょうどHPのアクセスが絶頂期を迎えた時期です。これだけアクセスがあれば、患者さんには困らないだろうという自信があったからです。ところが、いきなりアクセス数が落ちたため、17年4月に開業を控えるなか、必死に集患のためマーケティングを勉強しました。

このように、経緯は本当に行き当たりばったりで、私なりにやることはやった開業前夜、「まあ20人くらいは来てくれるだろう」と思っていたら、初日の結果は精神科10人の内科1人。真っ青になって今度は内科集患の試行錯誤に取り組み、今日に至ります。

Googleは神様? SEOに明確な答えはない

そんななかで、私が実地で学んだ気づきは、次のとおりです。

■Googleは神様で、私たちは手のひらで転がされている
日本でよく利用されている検索エンジンは「Google」か「Yahoo!」ですが、後者は前者のアルゴリズムを用いているため、実質的に「Google神」に支配されています。Googleが気に入る点は大まかには把握できますが、重視するポイントが急に変更され、大きく順位が変動することも少なくありません。このSEOのテクニックは、実は誰にも本当の正解はわかりません。
ただ、HP構築やライティングなどといった内部対策、リンクを中心とした外部対策を行うことで、検索順位が上がりやすくなるのは事実です(この点は、次回以降に掘り下げたいと思います)。

■ユーザーの目的や行動を変えるのは大変
昔から診療するベテランの開業医からは患者さんは離れず、どんなに優れたハードやソフトで勝負しても、思うようにはいきません。WEB上でも情報を調べに来ている人を受診までつなげるのは大変です。他人の目的や行動を変容させるのは、とても難しいのです。

■どんな患者さんを集めたいかでWEB対策は変わる
私のような「コンテンツマーケティング(記事による集患)」や、「SNSのフォロワー獲得」などが向いているのは、高収益のサービスかと思います。情報を調べつくした患者さんや、ファンとして受診する患者さんは、時間がかかる方が多いです。
前回ご紹介したLTV(ライフタイムバリュー)の高いサービスであれば割に合いますが、通常の診療ではおすすめできません。通常の診療で最も重要なのは、「地域名+診療科」で上位表示されることです。

患者の受診行動につながる5つのプロセス

それでは、開業前にWEBマーケティングとして、何ができるでしょうか?
ここでの焦点は、「いかに初診してもらうか」なので、初診WEBマーケティングになるかと思います。WEBを通じて診療所受診という「行動」に至るまでの、患者さんの意思決定をプロセス分析してみましょう。過程は、「認知」→「興味」→「閲覧」→「記憶・欲求」→「行動」の5段階です。

WEB上で「認知」させる手法は、
▽HPのオーガニック検索(診療科+地域名でのSEO)
▽リスティング広告
▽マップ(グーグルマイビジネスでのMEO)
▽病院紹介サイト
――になります。
どんなにすばらしいことを行っていても、WEB上では検索がすべてで、「認知」されなければ意味がありません。それぞれの観点でしっかりと行うことが重要です。

次に、表示されても、「興味」を持ってもらわないとクリックされません。ある程度上位表示されれば一定数クリックされますが、タイトルのつけ方でクリック率が変わります。ABテストしてみると検証できますが、WEB上でのコピーライティングも重要です。

「閲覧」では、興味を持ちクリックして最初に飛び込んでくるのは、トップページです。多くの人はスクロールして深く読むことはなく、数秒程度で読む価値があるか判断します。UIやUXなどと言いますが、ユーザーに「読みたい」と思わせるサイト構造が重要です。直帰率や滞在時間も変わるので、SEOにも大きく関係します。

そして、「閲覧」してもらったら、「まさにこんな診療所を探していた」人の「記憶」に残り、「欲求」が芽生え、受診行動につながる確率が高いです。一方、「良い医療機関の情報を収集していた」人は、「記憶」には残るものの、受診行動にはつながりにくいです。

このように、患者さんにとって医療機関を変更する「行動」に至る敷居は思ったより高く、先生方が周りと差別化できていると思っていても、なかなか集患できないというギャップが生まれる一番大きな要因です。大きな不満がない限りは、医療機関を変えるまでの「行動」は芽生えません。

まず、「認知」させるための手法を理解しておくのが重要で、HPを読んだ患者さんにどのような印象を与えたいかを考えてみてください。加えて、転院という高いハードルを越えられるような、具体的な自院の魅力を患者さん目線で考えることが大切です。ここまで考えておけば、自ずとHPの方向性は固まるかと思います。(CLINIC ばんぶう 2020年8月号)

※1:「ホームページ・ビルダー」とは、ジャストシステム社が開発・販売するWEBサイト作成ソフト。

※2:「バズ部」とは、WEBマーケティングのノウハウを発信するWEBメディアである。

※3:CMSとは、「コンテンツマネジメントシステム」と呼ばれる、デジタルコンテンツを総合・体系的に管理するシステムの総称。

大澤亮太(元住吉こころみクリニック代表医師)
おおさわ・りょうた●山梨大学医学部卒業。国際医療福祉大学附属病院臨床研修、神奈川県内の精神科病院・診療所で勤務しながら産業医活動を開始。中央省庁や多数の民間企業で嘱託産業医を務め、2017年4月、元住吉こころみクリニックを開院。産業医グループこころみの副代表として、産業医としても活動している。

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