実録に学ぶ! 診療所のWEBマーケティング実践記
WEBマーケティング≠アクセス 大切なのは受診行動につながること

患者の大半がWEBで診療所を検索する時代。WEBマーケティングは、診療所が継続的に取り組むべき重要な戦略の一つだ。本企画では、実際に取り組む診療所のエピソードから、診療所のWEBマーケティングを学ぶ。

開業前から医療情報の発信サイトを運営

皆様はじめまして。川崎市内で内科・心療内科を標ぼうする、元住吉こころみクリニックの大澤と申します。今回は、診療所のWEBマーケティングをテーマに僭越ながら連載の機会をいただきました。私は元来、WEBは門外漢で素人ががむしゃらに取り組んだに過ぎず、詳しい方から見れば語るに忍びない内容かもしれません。ただ、開業した方の多くは私に近い立場かと思います。私が培ってきた知見が、少しでも参考になればと思います。

第1回は、当院のWEBマーケティングの大まかな位置づけと取り組みを紹介します。
開業は2017年4月ですが、私個人はそれ以前から「医者と学ぶ心のサプリ」という情報サイトを運営しており、当時は月100万PV、60万UU ※1になっていました。最初は趣味と勉強として、最後は意地とやりがいを支えに運営しておりました。開業を意図したものではなかったのですが、当サイトを契機にいろいろな人との縁や機会につながり、医師7人でのグループ開業に至りました。
残念ながら、「Welp事件 ※2」を境に18年から約5万PVまで急激に落ち込みましたが、一方で、開業にともない開設した診療所のHPは改良を重ね、一時は300万PV、180万UUを超えました。現在は少し落ちましたが、ある程度の水準を維持しています。

ただ、留意したいのは、「アクセス数WEBマーケティング」であることです。BtoCの物販ならともかく、自院のサービスにつなげるのがWEBマーケティングの目的であり、HPはツールの1つに過ぎません。ほとんどの院長は、集患対策としてのWEBマーケティングに関心があると思いますが、実は、アクセス数を稼ぐこと自体に大きな意味はありません。たとえ少ないアクセス数であっても、確実に受診行動につながっていればよいのです。
市場調査をしてターゲットを決定し、WEB上で広告し、マネタイズを目指す。保険診療では型が決められているため、ターゲットを絞りHPやWEB広告を活用し、どう受診につなげるかが肝要です。そのため、本連載では、「HPアクセス数の上げ方」ではなく、「診療所の認知と受診行動へのアクションへのつなげ方」にフォーカスしていきたいと思います。

院長・診療所の強みから戦略のバランスなどを検討

そもそも、戦略は院長の強みや弱み、そして環境によっても変わります。私も素人ながら、開院前にSWOT分析などで整理しました。ただ、私の方法がそのまま読者の皆様に当てはまるわけではなく、戦略はそれぞれに合わせたものがあります。また、リアルでの戦略が「地上戦」なら、WEB上の戦略は「空中戦」です。もちろん両方大切で、院長の強みによってウエイトは変わりますが、費用対効果がよいのは、空中戦のWEBであることが多いでしょう。

当院は内科・心療内科と2つの診療科目がありますが、これらの戦略はまったく異なります。たとえば、診療圏で考えても心療内科は内科よりも広く、「空中戦」に重点を置いています。心療内科に関しては、WEB上のリスティング広告およびHPからのコンバージョン(電話や予約への遷移)を追求しています。その一方で、内科はせいぜい1㎞範囲の、ローカルなマーケティングになります。ですから医師会では「ノーと言わない日本人」を体現していますし、基幹病院へプレゼン資料を送付したりもしています。

こうして情報発信とマーケティングを両立させた結果、開業3年目で1日200人の患者さんにお越しいただけるようになりました(もっとも、現在は新型コロナウイルス感染症の影響で2~3割減になっていますが、不要不急が多かったというご指摘はご容赦ください)。
ただ、当院のような情報発信型のサイトは、実は集患面で大きなデメリットもあります。その詳細は、今後の連載で触れていきたいと思いますが、まず大きなデメリットを2つ挙げておきます。

●クセのある方が多く受診される
●検索サイトに「情報サイト」として認識される

調べてくる患者さんは経営的に難しい方が多く、当院のところでは、フィリピンや中国から来られる方もいました。そして、検索サイトに情報サイトとして認識されてしまうと、受診行動につながるキーワードで検索した際の順位が下がります。たとえば、「元住吉 内科」で検索いただくと、当院のHPは1位表示されないのです。その分リスティング広告などでカバーしていますが、オーガニック検索で1位をとれていないのは、内科の集患だけで考えると、大きなマイナスです。

一方で心療内科は、調べて比較検討する患者さんが多く、初診予約枠はすぐに埋まります。自分がターゲットの患者さんの気持ちになって考える(ペルソナ)と、情報サイトは信頼を高め、認知→行動の確率を高めてくれています。
そして、ターゲットの選定には、LTV(ライフタイムバリュー)が重要で、患者さんが終診に至るまでにどの程度の利益をもたらしてくれるのかになります。保険診療の場合、単価×通院回数とシンプルですので、疾患やサービスごとに想像しやすいと思います。まとめると、自分の強みからターゲットを選定し、そのペルソナを想像して、戦略を考えます。

当院の例を簡単にお話しすると、「内科と心療内科のそれぞれの専門家がワンストップで診療」「診療時間の幅広さでの利便性」の2つの軸が強みでした。
前者はターゲットとして単価も高くなりがちですが手厚いサービスが求められ、診察時間は長くなります。後者は単価が低いですが、待ち時間が短いなどのサービス面での快適さが求められます。私たちは前者を大事にする戦略をとり、「しっかり検査・診断・治療」という打ち出し方をしています(奇しくも後者は、コロナ渦で激減しました)。

当院が情報発信型のサイト運営を続けているのは、現状では社会貢献と自己満足という面が強いです。とはいえ、サーバー代だけで月13万円かかっているので、とても苦しいです(笑)。ただ、このおかげで、私のようなハグレ医師を、患者さんや医療者関係者が信用してくれることが増えました。そしてコロナ渦で攻めの戦略をとるべく、仕込んでいることがあります。芽が出そうでしたら、ここでご紹介させていただきます。

次回からは、当院のエピソードを交えながら、保険診療におけるWEB戦略、実際のHP運営のポイント、充実したコンテンツの書き方、情報サイトのメリット・デメリット──など、「空中戦」についてお伝えしていきます。どうぞよろしくお願いします。(CLINIC ばんぶう 2020年7月号)

※1:PV(ページビュー)とは、そのHPでユーザーが閲覧したページ数を指し、UU(ユニークユーザー)とは、期間内にHPを訪問したユーザー数を指す

※2:WELQとは、株式会社DeNAが運営していた医療情報関連のキュレーションサイト。毎日100本程度の記事を投稿して圧倒的な情報量を実現、Google検索では常に上位表示されていた。しかし不正確な医療情報が大量に公開されていたことが発覚。2016年12月、DeNAはその事実を認め、サービスを休止した。

大澤亮太(元住吉こころみクリニック代表医師)
おおさわ・りょうた●山梨大学医学部卒業。国際医療福祉大学附属病院臨床研修、神奈川県内の精神科病院・診療所で勤務しながら産業医活動を開始。中央省庁や多数の民間企業で嘱託産業医を務め、2017年4月、元住吉こころみクリニックを開院。産業医グループこころみの副代表として、産業医としても活動している。

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング