地域医療新時代 デジタルヘルスの今と可能性 今こそ診療所は理念に立ち返り 果たすべき役割を自認するとき

直近は3号連続で新型コロナウイルス感染症と社会や医療の変化をテーマにしてきた。本連載のテーマは「デジタルヘルス」だが、今回はより本質的な話をしていきたい。

新型コロナが見せた
診療所や医療制度のひずみ

厚生労働省がオンライン診療を実施する診療所を公開し、新聞やニュースでもオンライン診療がクローズアップされている。最も驚いたのは、App Storeのトップページでオンライン診療アプリの特集が掲載されていたことだ。2018年診療報酬改定でオンライン診療が絶望的な点数となった2年前からはまったく想像がつかなかった光景だろう。
「オンライン診療が流行っているのはいいことではないか」と、思われるかもしれない。もちろん、普及自体はよろこぶべきことだが、「流行っているからオンライン診療を導入しよう」と、安易に開始している診療所が多いのではないかという感覚がある。
新型コロナウイルス感染症の流行で患者さんが受診しなくなって、少しでも収益を増やすために導入する。いわばその場しのぎでのオンライン診療が増えているのではないかと。そのため、「新型コロナが収束したらやめよう」と思っている診療所が多いのではないかと思っている。

しかし、「新型コロナ騒動が収束したら、本当に患者さんは戻って来るのか?」と、一度考えてみてもらいたい。私は、たとえ完全に収束しても、流行以前のように患者さんは戻って来ないだろうと思っている。もちろん、外科的手術や処置、がん治療などが必要な人は戻るだろうが、一方で風邪などの一般的な外来に目を向けると、戻って来ない割合も多いと感じている。そもそも、今までの診療が、〝不要不急〟のものを多く含んでいたと考えているからだ。

時代とともにずっと変わらないものなどないだろう。本来診療所のあり方も、時代に合わせて変わっていくはずである。現在の診療システムは、1960年代の国民皆保険制度開始以降、約60年間、ほとんど変わってこなかった。年齢構成や疾患構造の変化、医師数の増加、診療所数の増大、薬の進化やOTC化、テクノロジーの変化──などが起こっているにもかかわらずである。
患者さんを長時間待合室で待たせておきながら、診察室では3分診療で、本当によかったのだろうか。患者さんの来院頻度が増えるほど、検査をすればするほど、収益が上がるシステムは、このまま続くだろうか。そのほかにも、現在の医療提供のシステムで違和感のある部分は多々ある。

そうしたシステムに疑問を持たずに、調子が良いときには、あたかもこのまま続くと考えがちだ。しかし、物事は絶えず変化していく。本来は、変化しないままでは、同じ状態を持続させることもできない。診療所の経営環境が悪化するつらい時期ではあるが、今までの診療スタイルを考え直すときが来ているのではないかと思うのだ。

新型コロナは、医療以外の領域でも、今まで少し気になっていても見て見ぬふりをしていた事柄に対して、目を向けるきっかけになっているし、なってしまったとも言える。すなわち、日本の医療においても、ゼロベースで見直す時期が来ているということなのかもしれない。
どのような医療が本当に必要とされて、どのような医療を患者さんが選んでいくのだろうか。

目先の流行りではなく
自院の理念をもって導入せよ

オンライン診療を推進している私が言うのも変ではあるが、診療所としての理念がなく、「周りがしているから」と合わせただけのオンライン診療の導入では、続かないと思っている。ご存じのとおりオンライン診療は、現行は診療報酬も低く、患者さんも使い方に慣れていない場合は時間も労力もかかるからだ。

オンライン診療だからと言って、今まで対面診療で話をしていた人との診療時間が極端に短くなるということもないのである。
「流行っているから導入する」のではなく、自院がなぜオンライン診療を導入するのか、それにより地域の患者さんにどのような医療を届けたいのか──ということを考えていただきたい。

それが、たとえば、患者さんの治療継続の促進や、感染リスクの防止などで、オンライン診療やデジタルツールを活用するというのなら、良いと思う。しかし、こうした考えもなく始めるのであれば、これからの診療所として生き残ってはいけないのではないかと思っている。

また、これまでの診療所のデジタル化に改めて目を向けると、今までは、つぎはぎのような形でその場しのぎに行ってきた側面もあるのではないだろうか。周りが導入しているから予約システムを入れてみたり、人件費が減るかもと思って自動精算システムも導入してみたりと、理念のないデジタル化は、一貫性がないと言える。

再三申し上げるが、今回新型コロナでオンライン診療に注目が集まっていることは、オンライン診療を推進する身としては、医療機関や一般の方々が知ってもらえる機会になりとても良いと感じている。しかし、同時に「流行に飛びついて」オンライン診療を始めた診療所もとても多いと感じているのも事実である。
オンライン診療はあくまでも患者さんを健康にしていくための手段であって、オンライン診療をすることが目的となってはいけないのである。

今は、時代の転換点だ。わかりやすく言うと、転換中なのでごちゃまぜの状態である。しかし、先生方も薄々感じておられると思うのだが、時代は必ず変わっていく。今は、その準備期間なのかもしれない。
よく言われるダーウィンの言葉で、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」というものがあるが、今こそ、心にとめてもらいたい言葉だ。

私も、一介の眼科医として医局に所属し、外来診療や手術に明け暮れていた日々から、2016年に厚生労働省に出向したことが、自分にとっての大きな転換点となった。ただ、その際は、私のもとに通院してくれていた顔見知りの仲のよかった患者さん、術後診察に来てくれている患者さん、私を信じて大切な自分の患者さんの紹介状を送ってくれる開業医の先輩、そして、働きやすい診療所とそのスタッフから離れ、京都から一人上京し、右も左もわからない官僚になった。
そのときの痛みがあったからこそ、今の自分がある。変化には大きな痛みがともないのだ。目の前の利益を重視して、先の利益をなくすことがないようにしてもらいたいと願いたい。

閑話休題。今の診療所に必要なのは、理念である。なぜ自分は開業医をしているのか、大いなる変化のために、理念に今一度立ち返るときだと考えている。(CLINIC ばんぶう 2020年7月号)

加藤浩晃(京都府立医科大学眼科学教室/東京医科歯科大臨床准教授/デジタルハリウッド大学大学院客員教授/千葉大学客員准教授)
かとう・ひろあき●2007年浜松医科大学卒業。眼科専門医として眼科診療に従事し、16年、厚生労働省入省。退官後は、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務めつつ、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSOや企業の顧問、厚労省医療ベンチャー支援アドバイザー、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大臨床准教授などを務める。著書は『医療4.0』(日経BP社)など40冊以上