今こそ見直すべき診療所の給与体制 Part2-1
これがうちの給与体制だ 経営状況を透明化し成果を還元する報酬制度を構築納得性を持たせた給与体制に

売上情報や経営指標をスタッフと共有

医療法人社団モルゲンロート有明こどもクリニックは、2010年に有明院を開院後、豊洲、勝どき、田町芝浦と、都内4カ所に小児科中心の診療所を展開しており、今年8月には大型商業施設の有明ガーデン内へさらに2つ診療所をオープンする予定だ。
事業拡大にともない、スタッフ数も右肩上がりに増加。そのため、現在では、「サポートチーム(人事・経理・マーケティング・秘書)」と、「店舗チーム(医師・看護師・医療事務・メディカルクラーク)」に業務機能を分けて、事業を展開している。
同法人の組織体制で特徴的なのは、売上に加えて、それに占める経費・人件費などの割合といった具体的な経営指標をスタッフに公開していることだ。

たとえば、売上に対して人件費は40%(医師20%、看護師や事務スタッフ20%)、材料費15~20%、家賃5%、広告費2~3%、残りは貸入れ金の返済や税金、投資金に充てる――と、あらかじめ設定し、売上が上がるほど、その費用にかけられる金額も上がる仕組みにしている。
「たとえば、10億円売り上げたらそのうちの4億円は人件費に充てることをスタッフに伝え、それを賞与につなげています。売上情報や経営指標をオープンにしているのは、スタッフに、給与や経費などのお金の流れを知ってもらい、納得性を持たせたかったからです。当法人の医師の給与は年俸制です。スポーツ選手のように、1年間の実績から来季の年収交渉をするので、その際、すべての数値をオープンにしておかないと、お互いの合意を得ることはできません」と、小暮裕之理事長は説明する。

同法人の給与体制は、基本的に医師の場合、「年俸制」で、看護師や事務などのスタッフは、「月給(昇給有)+賞与+業績手当」となっている。
年2回支給される賞与は、評価と連動させる仕組みを整えている(表)。ステージ毎に設定した評価を点数化し、その集計点が目標値を満たしていれば昇格する。

評価項目は「スキル」と「人格」。たとえば、「スキル」では、「この作業はどれくらいできているか」を4点満点で評価し、自己評価と上司が評価を行い、そのうえで面談を行い決めていく。「人格」では、「笑顔で挨拶できているか」「時間管理ができているか(時間を守る)」「プラスの言葉を使っているか(悪口・陰口を言わない)」などを評価する。上司評価は、「ここをもっとこうすれば評価が上がる」といったコメントつきでフィードバックすることで、スタッフの仕事や成長に対するモチベーションの向上にもつなげているという。

業績手当は同法人が定めたKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を達成したときに付与している。
KPIを構成する要素は、月間の来院数、新患数、かかりつけ登録数、NPS10点評価数、平均単価――。なかでも、重要視しているのが、患者からの評価軸である「NPS10点評価数」で、小暮理事長も毎日チェックしている。

「もちろん、各院の売上情報は必ず見ますが、NPS評価は、いわば診療所のバイタルサインなので、KPIでも特に重要な指標と捉えています。患者さんからの10点評価はスタッフのモチベーションにも直結するので、スコアは毎日アップし、常にスタッフ全員がスコアや患者さんからの意見を意識して、改善に取り組めるよう情報共有に努めています」

また、組織の方向性を一致させるため、同法人ではCCS(Corporate Culture Standard:企業文化基準)をまとめたものを作成。これは、ミッションをはじめ、行動指針や価値観、成長ステージ、スタッフやリーダーに求められる役割や考え方、経営戦略、教育制度などを文書化したもの。全100ページ以上にわたり、スタッフの意見を取り入れながら定期的にブラッシュアップしてきた。
このCCSの理解を深めるため、同法人では、週2回の朝礼時、CCSの解釈を発表する場を設けている。

未来の戦略づくりができる人材の育成が今後のカギ

新型コロナウイルス感染拡大を受け、小児科や耳鼻科の多くは、患者の受診控えで経営的に甚大な影響がおよんでいる。同法人も同様に、3月以降の患者数は見込み数の4割減、売上5割減となった。そのため、感染対策も含めて、出勤人数を半分に減らして交代制にし、新規入職者8人の教育もオンライン上に切り替え、その分、雇用調整助成金を活用するなどの対策をとった。

なかでもいち早く決断したのが、法人向けの「抗体検査」を往診で始めたことだ。4月から準備を進め、東京の自粛解除のタイミングで乗り出した。すると1日で3000人分の要請の問い合わせが殺到するなど、大きな反響があったという。

「4月はあらゆる固定費をまず見直し、交渉に走りました。人件費に関しては、基本給をいったん下げてもらい、売上に対する成果報酬で還元すると約束しました。対応は早かったのですが、離職してしまった人もいました。残ってくれた人には感謝しかありません。6月は、抗体検査の売上見込みも軌道に乗ってきたので、売上は戻せると考えています。このようにBtoCからBtoBのモデルへの転換も今後考えていくべきだと感じています」

これまで、小暮理事長は、抗体検査や事業拡大など、常に法人の価値を生み出すことに専念してきた。今後は、同法人内で、5年後、10年後の戦略づくりを担える人材を育成していきたいと話す。
「マネジメントできる人は多くいますが、未来に対する戦略を考える人材が育っていないのが課題です。損益決算だけでなく、貸借対処表やバランスシート、キャッシュフローなど、マネージャークラスのメンバーがそういった数字の感覚を磨き、経営者目線で物事を考えることのできる人材に育ってほしいと思います」

小暮裕之理事長(医療法人社団モルゲンロート有明こどもクリニック)

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