今こそ見直すべき診療所の給与体制 Part1-1
知っているか? 賃金制度の問題点 ワンマン経営から脱却する今は絶好の機会

今回の新型コロナ禍で、多くの問題が顕在化した。診療所の給与体制もその1つと言える。この章では、診療所スタッフの適正な給与体制や、賃金を決める際の基本的なポイントについて、株式会社AMI&Iの溝口博重代表取締役と、医療コンサルタントの服部英治氏に解説してもらった。

経営者一存の体制を変える

今年の3~5月は、新型コロナウイルス感染症の影響で多くの医療機関が減収減益となっています。流行病による、全国的な患者大減少は戦後初の事例ですが、昨今の診療報酬改定もあいまって、大きな打撃を受けた診療所も少なくなく、金策を含めた対応についての相談を多くいただいています。
もともとの医療政策は「診療所経営」はどんぶり勘定でもある程度、問題ない設定でしたが、2000年以降の医療改革で、診療所も経営を意識した取り組みを必要とする方向に舵を切っており、今回の新型コロナ禍でさまざまな問題が一気に顕在化しました。

医療機関は、病院はもちろんですが、診療所も労働集約型の事業形態であり、人件費が大きい割合を占めます。今回、売上減少への対応として夏の賞与カットするケースも多く見ます。
「そもそもボーナスは利益を従業員に還元するものだから、カットしても問題ない」という理屈もありますが、従業員側としては生活給としてボーナスがあるものと考えており、かつ、これまでは経営側も特に深く考えずに出してきたという背景もあるため、「経営者の一存で何でも決まってしまうのか」と、不信感の温床になりかねない状況が形成されつつあります。

組織統治の基本

組織統治には、経営者を含めたルールの規定が必要になります。日本の人事規定は欧米に比べ10年遅れている、と言われており、その日本のなかでも医療業界は10年遅れている、と言われています。要するに世界水準に比べ20年遅れていることになる日本の医療業界にあっては、就業規則や給与規定、人事規定など、時代にそぐわないルールを運用、あるいはあっても活用していないケースが非常に多くあります。

院長1人で、スタッフ4~5人という規模の診療所が大半で、各規定がなくても、どうとでもなる時代が長く続いてきたからです。しかし、現在では非常勤医やパート職員も増え、さまざまな雑事が生じています。当然、人の軋轢も増え、小さい社会ゆえにちょっとした不平不満も見聞きするようになっています。多くの院長は「診療よりも人事が大変」という認識を持っているでしょう。

しかし、これらの問題は昔ながらの人事ルールを運用しているから生じているケースも少なくありません。今回のコロナ禍は、賞与カットやスタッフの休業、さらには社会的な自粛といった大きな衝撃があり、言い方は悪いですが、この衝撃のさなかに、筋肉質の組織への転換を図ることは、なんとなくスタッフも必要なことかと、その内容を理解せずとも納得はしてくれやすいタイミングにあります。給与制度を含めた人事制度の再構築は、非常にセンシティブな問題であり、平時においては取り組み難いですが、有事に際しては必要なこととして受け入れてもらいやすい環境にあると言えます。

これを奇貨として、業界水準の20年前の人事・給与制度から脱却をして、ワンマン経営からしっかりした組織経営にシフトする絶好の機会です。むしろ、この機会を逸してしまっては、いつ変えるのか――という話です。「なんで俺ばかり大変なのか?」と思うことがある院長こそ、この機会に人事・給与制度の見直しをおすすめします。

組織規模に沿った人事制度に

人事・給与制度改革にはさまざまな手法論がありますが、診療所経営者が陥りやすい注意すべきポイントを1つだけ指摘しますと、『マッチョはマッチョを選ぶ』です。
ようするに、院長自身は経営者であり、組織と一蓮托生の関係にありますが、それを前提とした人事制度は組織経営への転換になりえません。かといって、バカみたいな金額を積んで、使えもしない最新最先端の人事制度を導入する必要もありません。組織規模に合った人事制度であり、運用可能なシステムは何か――という視点が重要になります。

現在の主流では、人事・給与制度の目的は「組織の成長」であり、そのために個々のスタッフの成長を促す事が求められています。評価のための人事制度や、給与水準を決めるための人事制度は一昔の制度と言えるでしょう。
また病医院は女性が多く、その価値観や考え方は、男性的な『マッチョはマッチョを選ぶ』といった人事・給与制度を受け入れがたい土壌があります(現状は、ほぼ何もない)。その点を注意しながら、人事制度の見直しに是非着手していただければと思います。(CLINIC ばんぶう 2020年7月号)

溝口博重氏(株式会社AMI&I 代表取締役)

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