これから始める病院原価計算
第5回
経営陣と現場管理者の不要な対立を生み出すコミュニケーション不足

医療の質向上には、経営の質向上が欠かせない時代。病院運営においても収支のバランスをいかにとっていくかが、生き残っていくためにも必要となる。現場スタッフに経営意識をもたせるには、数字を示すだけでなくコミュニケーションを図ることが大切だ。

若い医療スタッフに経営意識が必要な理由

新年度に入り、新たな医療スタッフを迎え入れた病院も少なくないと思います。若い医療スタッフにとって、本稿が取り上げるテーマへの関心は高くないかもしれません。しかし、これからの病院運営において、収支のバランスを意識することは重要なことです。

図1は、2017年4月に公開された年齢区分別の将来人口推計を示しています。総人口はすでに減少しており、40年からは65~74歳以上人口、50年からは75歳以上人口が減少に転じます。現在は罹患リスクの高い高齢者が増えているため医療需要は増加していますが、若い世代がキャリアを重ねる過程でピークアウトを迎えることは確実な状況です。

医療需要が減ることは収入の減少につながり、減収に転じた病院では費用の最適化が必要になります。将来の病院経営を担う若い医療スタッフは、これまで以上に経営意識をもつことが要求されています。

年度別人口推計

医療の質向上には経営の質との両立が必要

19年11月に公開された医療経済実態調査をみると、51・7%の病院は赤字経営になっています。病院は赤字でも存続できるという意見もありますが、現実は異なります。

図2は、医療施設調査の年次別病院数を示したものです。1998年から2018年にかけて、961病院が減っており、減少率は10%を超えています。すべてが赤字による経営破綻ではありませんが、社会インフラを支える病院だからといって、無条件に存続できる保証はありません。病院が医療の質を向上し続けるためには、経営の質も必要な時代になっています。

病院別(年次別)

経営改善に必要なのは適切なコミュニケーション

ここからは、鹿児島県に所在する病院の経営改善事例を紹介します。同院では、経営陣が看護師給与費の対医業収益比(看護師給与費÷医業収益)が他病院より高いことを指摘して、現場に改善を求めていましたが、看護部長は「看護師だけを悪者にしている」として、とりあいませんでした。

院長から現場介入を依頼された筆者は、看護部長に対するヒアリングで、人員削減や給与見直しに対する警戒心を抱いていることを知りました。しかし、経営陣に確認すると、そういったことは全く検討しておらず、稼働率向上や時間外労働削減などの改善シナリオをイメージしているようでした。

問題の所在がコミュニケーション不足にあるとわかってからは、経営陣の意向が現場に伝わる資料の作成に着手しました。図3は、その際に開示した資料の一部です。横軸は年間の延べ空床数、縦軸は1ベッド1日当たりの看護師給与費(①看護師給与費÷病床数÷365日)を示しており、バブルの大きさは空きベッドが生じることによる年間損失額(①×延べ空床数)を表しています。

病棟別空きベッドによる年間損失額

このような指標のモニタリングを通して看護師の経営意識が向上した結果、同院では、取り組み開始からの1年間で看護師給与費の対医業収益比が25・3%から23・0%に減少し、現在も改善を続けています。現場に働きかけを行う場面では、考えがシンプルに伝わる情報開示を心掛けましょう。

小川陽平(株式会社メハーゲン医療経営支援課)
おがわ・ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院.com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成

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