これから始める病院原価計算
第4回
経営陣と現場で意見が対立したときは第3の案を検討する

原価計算が完了後、経営改善をめざす。利益が減っている部門はどこか。改善方法は収入増か支出減か。現場を回すためには3つの方法のどれを選ぶか、とシンプルに整理することで無駄な作業が発生せずにすむ。

計算結果の確認場面では仮説思考に基づき検証

原価計算が完了してからは、改善の余地がある経営指標を探します。手あたり次第に確認するのは非効率なので、仮説思考に基づいた検証が有効です。
病院全体の利益が減少している場合、少なくとも1つ以上の診療科で利益が減っています。そして、利益が減っている診療科では、収入が減少しているか、費用が増えているか、もしくは2つが同時に進行しています。また、それらの原因にかかわらず、経営を改善する方法は、収入を増やすか費用を減らすかの2択しかありません。
このように、あらかじめ情報を整理してから確認をはじめると、検証作業がスムーズになります。

経営指標を分解すると改善策を検討しやすい

原価計算は、現状把握による問題発見を目的とした手段であり、改善策を検討する場面ではあまり役に立ちません。
それでは、改善策はどのように検討すれば良いでしょうか。有効なのは、経営指標を因数分解することです。たとえば、医業収益を構成する要素の1つである入院診療収益は、入院患者数×入院1日あたり単価×平均入院日数に分けられます。入院診療収益を増やす方法を考えるよりも、入院1日あたり単価を上げる方法を考えたほうが、具体的な解決策をイメージできます。

意見が対立する場面では別の選択肢を探してみる

ここからは、福岡県に所在する病院の改善事例を紹介します。
同院では、外来患者が増加する一方で入院患者が減少し、苦しい経営状況が続いていました。現場は、外来負担増に対応する目的で人員追加の要望を出していましたが、経営陣は、利益が減少している状況での人員追加を避けたい意向をもっています。
現場が回らない状況を改善する方法は、①生産性を高めること、②人員を増やすこと、③サービス量を減らすこと──の3パターンしかありません。今回の状況を整理すると、①と②で意見が分かれている状況だったため、③のパターンによる解決策として、外来診療の縮小を検討することにしました。

入院、外来患者から得られる限界収益

図1は、その際に作成した資料の一部です。入院患者1人から得られる限界利益(①75万820円)と、外来患者1人から得られる限界利益(②5万7550円)には大きな差があり、外来で入院と同じ利益を得るには、外来患者を13人以上(①÷②=13・04……)診なければならないことがわかります。

経営分析の結果を示し新しい施策の納得感を確保

経営陣に外来診療は収益性が低いことを示し、縮小する提案を行った結果、重症化のリスクが低い患者については逆紹介を推進することが決まりました。現場からは「患者にどう説明するのか」という意見が出ましたが、かかりつけ医制度の普及と、周辺医療機関紹介を目的としたリーフレットを作成することが決まり、説明後も、通院を希望する患者については受け入れることにしました。
そのほかでは、「外来患者が減ると余計に収入が減る」という意見もありました。

外来単価が病院全体の収支に占める割合

図2は、外来患者の39%を占める単価5000円以下の患者は、病院全体の収入に3%しか影響していないことを示しています。その後も、外来患者の8割以上は入院につながっていないことなどを伝えた結果、少しずつ現場の納得感が得られるようになりました。
これらの経過を経て外来患者の逆紹介を開始した同院では、逆紹介先からの紹介患者が増え、当初の目的は達成できませんでした。しかし、紹介からの入院が増加したことで2・1%の赤字から0・2%の黒字に転換しました。

小川陽平(株式会社メハーゲン医療経営支援課)
おがわ・ようへい●2012年10月、株式会社メハーゲン入社。IT企画開発部に配属。自社開発の原価計算システムZEROのパッケージ化を推進。14年6月、R&D事業部に異動。15年11月、WEBサイト「上昇病院.com」開設。1年で会員数200人突破。16年9月、医療経営支援課に異動。17年10月、大手ITベンダーと販売代理店契約締結。18年、原価計算システムZEROの年間導入数10病院達成